食品原料の高騰が続く中、パン粉業界ではこれまで慣行だった小麦粉主体の価格改定を見直す動きが強まっている。主原料の小麦粉に加え、副資材や燃料などあらゆるコストの上昇に頭を抱えているのは他の業界と同様だが、パン粉の商品特性や業界構造が問題をより深刻なものとしている。周知の通り、主原料である小麦粉は3期連続で引き上げられた麦価改定により、大きく値上がりした。これまでパン粉業界では、小麦粉の価格変動に合わせて価格改定するのが一般的で、仮に上昇分を転嫁できない場合でも、下がった時に据え置き、帳尻を合わせるやり方をとってきた。だが、従来のような一ケタ台の変動ではなく、昨年10月が19%、今年4月が17.3%と大幅な上昇が続き、状況は変わった。
全国パン粉工業協同組合の關全男理事長(フライスター社長)は「上昇幅がこれだけ大きいと、過去にできなかった分を後から回収するのが難しくなる」と指摘。さらに、「今までのように小麦粉主体で価格を決めるのではなく、その他のコストもきちんと回収していくような考え方を業界の共通認識として持たなければならない」と力を込める。
業界では、乾燥パン粉でキロ当たり30数円の値上げが妥当との見方が強い。あるメーカーの試算によると、このうち小麦粉の値上げが約半分の15円、油脂やイーストなど副原料が6円、包材が2.5円、エネルギーが7円、物流が1.5円。つまり、急騰した主原料の小麦粉(15円)以上に、それ以外のコストの合計分(17円)が上昇しているということだ。特に目立つのがエネルギーである。これにはパン粉の製造過程が関係している。
「パンはオーブンで焼いて完成だが、パン粉は焼いたパンをさらに電気で粉砕し、燃料を使って乾燥させる。それだけコストがかかる」(富士パン粉工業・小澤幸市社長)。複雑な製造工程に加え、昨今はより厳格な衛生管理が求められ、それなりの設備投資も必要となっている。また、業務用ではユーザーの要望に合わせて砂糖やバターなどを配合する場合もあり、そうなると副原料費はさらに高まる。
全生産量の約9割が業務用で、その多くを地方に点在する中小企業が担っているのがパン粉業界だ。業務用の顧客は冷食メーカーや惣菜ベンダーのほか、飲食店などである。冷食メーカーと取引するパン粉メーカーは「冷食メーカーと納価を話し合えるのは年に1回だけ。小麦粉価格は3期続いて上がっており、次回も大きく高騰する見通しだ。2期分あるいは3期分をきちんと転嫁しなければ企業の存続にかかわる」と危機感を示す。また、得意先の料飲店に配送するメーカーは「わずか2、3㎏のパン粉を燃料費や駐車場代を使って車で届けていては割に合わない」と嘆く。
ウクライナ侵攻や円安により、今年10月期の輸入小麦も相当な上昇が予想される。岸田総理は「必要な措置を講じる」との考えを示したが、コストアップは小麦粉にとどまらない。
關理事長は「粉価にお任せという慣行を改め、業界の体質を変えていく必要がある」と強調。また、西日本パン粉組合の小谷一夫理事長(小谷食品社長)も「これまでの値上げの時以上に、危機意識を持って臨まなければならない」としている。