介護離職者は毎年約10万人で2030年には家族介護者のうち約4割(約318万人)がビジネスケアラーになる見込み――。
仕事と介護の両立困難などによる経済損失は2030年に約9.1兆円になる見込み――。
どちらも今年3月に発表された経済産業省の資料によるもの。
3月の発表に先立ち、伊藤園の営業がこのような社会課題に敏感に反応し、2021年、広域流通営業本部業務用営業推進部に医療・介護チャネル向けの営業に特化した業務用営業推進四課を新設。専用製品開発の旗振り役も務め、現在、「とろり緑茶」と「なめらか玄米ミルク プラス6大栄養素」を販売し、少しずつ販路と売上を拡大して前進している。
四課は、病院や介護ケア施設への自販機営業などを担当する久保田敦之さんが高齢者向け食品への参入を経営層に向けて提案して立ち上げた組織。
10月24日開催された発表会で久保田さんは「経営課題解決講座という2年間の社内研修を通じて、企業として社会課題の解決に貢献し事業継続性を確保していくことが大事だと知る。医療・介護というのは当社の強みを活かせる事業領域であり、社内的にも新しいことにチャレンジしていく姿勢を示したいと考えた」と振り返る。
医療・介護の事業領域で着目したのが、高齢化の進行とともに生じやすくなる、食べ物や飲み物が誤って気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)。
誤嚥は、加齢に伴う嚥下(えんげ)機能の低下で激しいむせ込みを引き起こし、誤嚥しそうになるのを検知して軽くむせ込む場合もある。
声帯の上には、飲食したものが気管に入らないようにするための咽頭蓋(こうとうがい)と呼ばれるフタがあり、飲食の際、このフタの閉まるのが間に合わないと、気管から排出するためにむせ込みが生じる。
むせ込みを防ぐ対処療法が、とろみ付きの食品・飲料の活用となる。
とろみで、喉を流れるスピードを緩やかにすることで、フタが遅れることなく閉まり、むせ込みを防ぐ原理となっている。
ただし、医療・介護現場では、人手不足の中、飲み物にとろみ剤を入れてとろみを付けるのは従業員の重荷となる。“均質にならずダマになりやすい”“手間や時間がかかる”といった課題が生じている。
この課題解決に向けて開発されたのが「とろり緑茶」。
予めとろみが付いているため、とろみ付け作業が不要で、時間が経ってもダマにならない均質なとろみを維持できるようになっている。
2022年11月に発売開始し、チャネル別売上構成比は現在、医療・介護ルートと在宅ニーズに対応したECで半々となっている。
認知拡大に向けて取り組む中、甲状腺の手術を終えた消費者から一通の感謝の手紙が届く。
その内容は、手術後、水分のむせがひどく、とろみ剤を使用するとひどい下痢になる中、「とろり緑茶」を飲んだところ、そのおいしさに感動し、困らず生活が送れているというもの。
「これまで、お茶で命が救われましたと言われたことはなかったため、個人的に物凄く感動し励まされた」という。
能登半島地震被災地支援では「とろり緑茶」を600本協賛したところ、臨時老健施設へ応援に駆けつけた管理栄養士からも感謝の声が寄せられた。
久保田さんは、加齢により心身が老い衰えた状態であるフレイル対策も呼びかける。
食べづらい、飲み込みづらくなることで引き起こされる低栄養もフレイルの一因となる。
この点に着目して開発された第二弾製品が「なめらか玄米ミルク」で2023年3月から発売されている。
同製品は、小容量で1本150kcal、不足しがちな食物繊維5gをはじめ、たんぱく質・脂質・糖質・ミネラル・ビタミンがバランスよく摂れることに加えて、健康性とおいしさを打ち出した点が特徴となっている。
味わいは、焙煎した玄米を使用することで後味にスイーツのような甘く香ばしい味わいを付与。
女性層に支持される傾向にあることから、このほどパッケージデザインを改め柔らかいイメージを強化した。
課題は、70歳前後を境に栄養摂取の考え方が変わることの啓発にあるという。
「生活習慣病予防で塩分や脂肪などのエネルギー制限が大事だったのが、70歳を過ぎると高たんぱく・高ビタミンDなど適切なエネルギー摂取が求められ、ここのところの“ギアチェンジ”をいかに伝えていくかが大きな課題」と述べる。
現在、「とろり緑茶」と「なめらか玄米ミルク」の出荷金額は約5億円に上る。
今後、既存商品の販路拡大や商品の認知向上、新商品の開発に取り組み、2030年には50億円の出荷金額を目指していく。