太陽が育んだ伊産完熟トマトを日本へ㊤ イタリアのトマト缶事情

地中海の太陽のもとで育てられるヨーロッパのトマト缶に使われるトマトは、ジューシーで真っ赤に完熟した時に摘み取られ、様々な方法で調理される。中でも通年で入手可能なトマト缶詰は、加工方法により強力な抗酸化物質リコピンなどの有用な栄養素が体に吸収されやすいだけでなく、摘みたての鮮度が保たれるため、生鮮食品よりも優れている。

イタリアのトマト保存加工企業で構成するイタリア野菜保存食品産業協会(ANICAV)は、欧州連合(EU)の経済協力により展開する欧州産トマト保存食品の啓発キャンペーン「レッドゴールドフロムヨーロッパ(Red Gold From Europe)」を展開しており、ヨーロッパとイタリアのトマト缶の日本における消費および輸出を促進するためのプロモーションキャンペーンを展開している。そこで「イタリアのトマト缶事情」と題し、「レッドゴールドフロムヨーロッパ」の内容や生産工場の概況、日本市場への想いなどを上・中・下で連載する。

レッドゴールドフロムヨーロッパ イタリア野菜保存食品産業協会 ジョバンニ統括部長に聞く

欧州産トマト保存食品の啓発キャンペーン「レッドゴールドフロムヨーロッパ(Red Gold From Europe)」を各国で展開しているANICAVのジョバンニ(Giovanni De Angelis)統括部長にイタリアのトマト缶の特徴や、日本市場への期待感などをインタビューした。(聞き手:金井順一)

――レッドゴールドフロムヨーロッパキャンペーンの概要を聞かせてください。

ジョバンニ統括部長 ANICAVは各国で欧州産トマト保存食品の啓発プロモーションを継続的に展開しており、各国のジャーナリストを呼んでの啓発活動もその一環です。日本ではトマト缶詰は非常に人気だが、あまり知られていない国もあるので、各国で啓発活動に力を入れ、アメリカやヨーロッパでもイベントを企画しており、インドのお客様も呼びたいと思っています。ヨーロッパでは皮むきホールトマトだけではなく、オーガニックトマトをプッシュするなど様々な企画を計画しています。

――セリット(SELLITTO)社の加工工場があるカンパーニア州サレルノ県周辺はどのような場所ですか。

加工用のトマト - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
加工用のトマト

ジョバンニ統括部長 イタリア全土には約120軒のトマト缶工場があり、セリット工場があるカンパーニア州サレルノ県周辺は最も加工工場が多く、家族経営の工場が密集しています。この地域の土地はミネラルが豊富でトマト栽培に適しています。トマト品種は細長いサンマルツァーノ品種で、丈のサイズは幅の2倍と決まっており、トマトの皮をむき、ホールトマトを缶詰に入れ、工場から世界中に輸出しています。最も大きなマーケットはアメリカで、日本は2番目です。日本とアメリカは品質基準が異なり、高品質商品しか輸入しない日本はとてもありがたいことです。

――イタリアのトマト缶の特徴について。

ジョバンニ統括部長 イタリアの土地、土、太陽の下で育ったトマトを原料としたトマト缶は、味や香り、安全性、衛生的に優れており、こうした環境は他の国にはありません。加工には150年の歴史と経験があります。ベスビオ火山近くの土地で育ったトマトなので、ミネラル分など栄養価が高く、ローマ時代には、このエリアはカンパーニア・フェリクス(カンパーニア州の幸せ)と言われたほどです。

――日本へのアピールポイントは。

ジョバンニ統括部長 日本はイタリア産トマト缶の高品質を理解してもらっているのでありがたいです。トマトの缶詰、瓶詰めであってもフレッシュトマトと同じようにおいしく、栄養価が高く、これを啓発したいと思っています。フレッシュトマトは1年中は食べられないが、トマト缶はフレッシュ性と栄養価を保ちながら1年中食べられます。昔とは違って近代的な加工工場では安全性と高い品質が保たれています。昔は数人の作業員により、短期間に安全な高品質製品を製造するのは難しかったが、今では2か月という短い期間内に、1年分の高品質トマト缶を製造する技術力があります。

加工工場には150年の歴史があるが、この間、製造工程は大きく進化しました。進化した理由は日本の声を聞いたからです。日本のお客様(インポーター)が工場に訪れ、製造工程のアドバイスをもらったおかげで多くを学び、製造工程や品質チェックなどで大きく改善しました。そのため日本のインポーターは、お客様というよりパートナーとみています。イタリアのトマト缶の品質は、もともと高かったが、日本から製造工程のアドバイスをもらったおかげで一層改善され、日本にはとても感謝しています。つまり、イタリアのトマト缶の良いところは、他国のトマトと比べるとトマト自体がおいしいこと、この周辺の工場は150年の歴史があり、トマト加工はとてもシンプルなプロセスだが、150年を積んだ経験を生かした技術は非常に高いです。

――イタリアのトマト缶業界について。

ジョバンニ統括部長 トマト缶業界にはプレイヤーが3つあります。農家と加工工場、ディストリビューターです。そして3者のマージンは同じだということが理想です。トマトの品質や品種に関しては、3者が話し合って同意しています。大きなテーマは生産計画です。作り過ぎると工場は買えないし、買っても価格が下がってしまいます。逆に少ないとマーケットのリクエストに応えきれず、価格が上がってしまいます。つまり3者にとって、今年はどの程度の量をつくろうという生産計画が最も重要なわけです。

トマト農家とトマト加工工場の関係は非常に複雑です。農家は売り手、工場は買い手であり、そのバランスが難しいわけです。私は部長ですから工場をサポートしたいのですが、両者が良いバランスを保たないと、どちらも高い利益が得られません。農家が栽培しているトマトはトマト缶用なのでなおさらです。

トマト業界のもう一つの問題は45~60日間の短い期間に、トマトの収穫と生産加工、出荷のすべてをしなければならないということです。この短い期間で1年分のトマト缶を製造しなければなりません。もう一つの問題はトマトを収穫してから24時間で加工しないと傷んでしまいます。そのため悪天候や機械に支障をきたしたら製造できません。

――他国との比較をどうみていますか。

ジョバンニ統括部長 トマトはイタリアだけで栽培されている野菜ではありません。ヨーロッパではスペイン、それに中国やアメリカ・カリフォルニアでも栽培されています。他国との競争も激しいわけだが、イタリアのトマト缶はアメリカや中国のトマト缶と違って、イタリアで製造したものを、そのまま日本の店や小売店で提供しています。しかしカリフォルニアや中国で製造されるトマト缶は一度、再加工しなければなりません。アメリカや中国のトマト缶がイタリアに似せた名前を付けるのもそのためです。パッケージをよく見ないと分かりませんが、お客様に本物のイタリア産のトマト缶であることを伝えることもANICAVの役目です。

――他国と比べてイタリアのトマト缶が優れている理由は何ですか。

ジョバンニ統括部長 どこの国でもイタリア料理が広がれば、イタリアのトマト缶詰が選ばれるはずです。簡単なイタリア料理でもトマト缶によって料理の味わいが変わります。

――缶容器のメリットは。

ジョバンニ統括部長 缶容器は100%リサイクルが可能で、サスティナブルな容器と言えます。瓶は容器コストが高く、破損の可能性も高い。サスティナブルに見える紙容器は紙とアルミの2枚が重なっておりリサイクルが難しいです。

――トマトの機能性について。

ジョバンニ統括部長 トマトの一つの成分であるリコピンは、非常に抗酸化力が高いことで知られています。しかも缶詰にはフレッシュトマトのリコピンがそのまま残っています。リコピンは日本のトマトと変わりませんが、身体のために良いものだから美味しく食べたいわけで、イタリアの太陽の下で育ち、ミネラルが多い土地で育ったイタリアのトマトの方が美味しいと思います。

イタリアと日本は長寿の国として知られているが、それはトマトをたくさん食べているからでしょう。日本ももっとトマトを食べれば、より長生きするでしょう。ANICAVの会員が供給しているトマト缶の中には、健康食品やオーガニック食品もあります。

――イタリア政府は「イタリア料理」をユネスコ世界無形文化遺産登録に申請しましたが、これに伴いトマト缶の需要は高まるでしょうか。

ジョバンニ統括部長 イタリアは「地中海食」が既にユネスコに登録されているが、「イタリア料理」も登録が実現すれば、トマト缶にとっても大きなチャンスになると思います。

――トマトジュースの可能性は。

ジョバンニ統括部長 イタリアの料理文化にはトマトジュースはありません。輸出用に製造されているが1割にも満たず、国内ではトマトジュースの需要はほとんどありません。

――今後、日本での開拓活動予定は。

ジョバンニ統括部長 来年3月に開催される「FOODEX JAPAN2025」にはANICAVとして出展する予定です。

イタリア、EUトップの生産量

加工工場の選別ライン - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
加工工場の選別ライン

2023年の世界の加工用トマト生産量は約4400万t前後と推定される〈世界のトマト加工業界を代表する国際的な非営利組織WPTC(World Processing Tomato Council)のデータなどを参考〉。ここ数年は20年3800万t、21年3900万t、22年3800万tと3000万t後半で推移してきたが、23年には4400万tとなり4000万tの大台に乗った。24年予測は前年を上回り4700万tが予測されている。

加工用トマトは、農家が生産したトマトをトマトペーストに加工し、ペースト在庫の多さで生産調整され、世界在庫が多い年は生産量が落ちる。生産が増えると在庫が正常化され、23年は在庫薄が平準化され、24年は需要が上がったため、増産傾向になっている。

世界的には米国(カリフォルニア)と中国の生産量が多く、EUの中ではイタリアがトップを保ち、スペイン、ポルトガルが続いている。イタリアは22年548万t、23年540万tと安定的な生産量を保ち、24年は550万tとやや増産が見込まれている。

今年のイタリアの作況をみると、北イタリアは今春、例年に比べて雨が多かった。定植は順調だが、雨の影響で収穫は少し遅れ気味。毎年気候変動が大きく影響し、今年も天候の影響があればスケジュールは不透明。南イタリアはスケジュール通り4~5月の定植を終え、現時点では昨年と同水準の見込み。