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流通・飲食小売西友が北海道と九州の店舗事業を手放す理由 大久保恒夫社長が語る

西友が北海道と九州の店舗事業を手放す理由 大久保恒夫社長が語る

 西友の大久保恒夫社長は6月12日、流通報道記者会の懇談会で講演し、北海道と九州の店舗事業を譲渡する理由について、物流コストが足枷となり地域の食文化に対応しきれない点を挙げた。

 大久保社長には、食品スーパー(SM)業態は、全国一律ではなく各地域の食文化に対応すべきとの持論がある。

 「西友は総合スーパー(GMS)ではなくSM。食品以外の売場はテナントで、次々とテナントへ変えていっている。アパレルや住関連(の売上構成比)は3%以下。アパレルの場合、5000円や1万円の商品を(遠くに)運んでも採算が合うが、200円・粗利25%の商品では全然合わない。物流コスト面で食文化になかなか対応しにくいところがあり地域を集中したほうがよいと考えた」と語る。

 北海道では西友9店舗をイオン北海道に譲渡する(効力発生日10月1日予定)。
 一方、九州ではサニーの屋号を中心に69店舗を所有。これを同エリア全域で84店舗展開するイズミグループに譲渡する(効力発生日8月1日予定)。

 西友は、売場に商品を並べるだけの単なる販売業からの脱却を志向し、デジタルマーケティングを推進。デジタルマーケティングは、規模拡大でより効果を発揮するスケールメリットの性質を帯びることから、手放した店舗数の穴埋めとしてM&Aや他企業との提携を検討する。

西友の大久保恒夫社長
西友の大久保恒夫社長

 「相手があることで、こちらの基準や希望はなく、どんなものでも検討したい。M&Aは嫌がられる可能性もあるため、もう少し緩い形の資本提携や業務提携でスケールメリットを出していくことも考えていく」と述べる。

 デジタルマーケティングは、西友が追求する営業利益拡大の要となる。引き続きデータを活用して商品力と販売力に磨きをかける。

 「AIを活用することで、さらに精度が上がる。利益を上げるには、リストラして経費を下げるのではなく、価値向上が利益拡大につながると考える。小売業は商品力と販売力が2本柱。商品を並べるだけのオペレーションではダメで、お客様のニーズに合わせて小売業が生産段階まで踏み込みリーダーシップを持って流通構造を管理していかなければならない」との見方を示す。

 AIの活用は、本格活用には膨大なコストを要することから“疑似AI”の導入をイメージ。接客ではチャットポッド、社内では議事録の作成等で既に実用段階にある。

 売場への導入については「定番売場・特売売場の品揃え・価格・フェース数・位置けの適正化に向けて取り組んでいる。費用が何十億もかかり難しいが、AIの技術は日を追うごとに進歩しているため、実用化された時点で西友が先陣を切って成功事例を生み出していきたい」と意欲をのぞかせる。

商品力は、「みなさまのお墨付き」「食の幸」「SEIYU FINE SELECT」のPBに磨きをかけ、惣菜については「マーケットニーズが物凄くある」との見方からセントラルキッチン(CK)化を推進。これに伴い精肉を加工するプロセスセンター(PC)も強化していく。

 惣菜は、店舗内で食品を加工・包装するインストア加工に要する費用を販売管理費とせずにCK同様に製造原価と捉えると、CKのほうがインストア加工よりも粗利率が高くなると大久保社長は指摘する。

 惣菜のおいしさについては「唐揚げは作り立てだと思うが、米飯弁当を作り立てで出して意味があるのかと思う。CKで作っても同じ」とみている。

 惣菜の商品開発の方向性は“家庭で作るよりもおいしい”。
 「専門店が使うような調味料を使った料理や調理キット的なもので簡便に料理をしたいというニーズは大きいと思っている。『10種類の野菜サラダ』などバラエティな素材を使ったものも強化していく」。

 おいしさにこだわったオリジナル・スイーツの開発も促進。第一弾として、一つ星レストランで経験を積んだパティシエ監修のプリンとモンブランは計画を上回る売行きという。

 もう1つの柱である販売力は、各個店がAIなどを駆使しながら引き上げていく。単品在庫の適正化や商品のよさアピールする店頭での売り込みに注力する。

 「定番売りは本部でコントロールすべきだと思うが、特売はエンドの本数や平台の個数が店舗によって異なるためコントロールできない。本部は標準や規格を定め、これらを具体的に実行するのは店舗。従業員が自ら考え行動する、このことが商売の楽しさだと思っている」と説明する。

 人件費は1人・1時間あたりの売上数量(UPLH)を指標にコントロールしていく。

 大久保社長は21年から現職。1979年3月早稲田大学法学部卒業後、イトーヨーカ堂入社。その後、ファーストリテイリングや良品計画などの経営改革のコンサルティングを行うなど一貫して小売畑を歩む。

 イトーヨーカ堂入社から現在に至るまで一貫して志向するのが、来店客に喜びを与え小売業の社会的評価を上げていくことと。

 「私は小売業で働けてとても幸せで、小売業は素晴らしい仕事だと思っている。小売業はお客様に喜んでいただくことが目的であり、他人に喜んでもらいたいという思いを持って仕事する、こんなに誇りを持てる仕事はない。真面目に一生懸命働かれている方が多い割に、労働環境が悪く給与水準も高くない。小売業が社会に貢献していることをもう少し世の中に認めてもらえるよう、少しでも貢献していきたい」と語る。

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