味の素社は、昨年6月に企業のマーケティングをサポートするクラシコム(東京都国立市、青木耕平社長)と協働で「暮らしの素プロジェクト」をスタート。両社で企画した「きょうは主役のだし粉」が3月31日より通販サイトで発売したのを踏まえ、プロジェクト内容を社内で共有するため、味の素のマーケティングデザインセンター(MDC)主管の成果報告会を開いた。
クラシコムのD2Cビジネスのノウハウと、味の素のブランド力・商品開発力を生かした「きょうは主役のだし粉」は、料理や食材にそのままかける”ふりかけダシ”タイプの商品で、生活者のインサイトに着目して開発された(一部既報)。原料のかつお節は、味の素がかつおのサイズ、脂肪量、焙乾条件、薪の産地などにこだわり、老舗のかつお節店と開発。かつお節と昆布の粉末だしに加え、アクセントに削り節も入れ、おいしい食感を実現した。74g、税抜き1500円、4月30日まで期間限定で発売。
プロジェクトメンバーは味の素の3名、クラシコムの3名で構成され、両社とも初の取組み。成果報告会では商品そのものより、それぞれの観点からみた取組み姿勢やプロジェクトへの想いなどを中心に発表した。
報告会の中でMDCのD2C事業部の任友璇氏は、「プロジェクトメンバー全員が共感できることをフックとし、新しい調味料だけに”使いきれない問題”も懸念されたが、ダシを”沢山かける”ことには違和感なく受入れられるという前提で議論がまとまった。本来、ダシは黒子的な存在だが、食にとって必要な存在であることに光を当てた。企画では定性調査や競合品調査は行わず、自らの想いやエピソードを起点に進めた」と振り返り、プロジェクトを終えて、「生活者と自分を切り離さないこと、自分を切り離し、社員として仕事をしないこと、市場データに頼らないことなどを学んだ」と言う。
MDCのコミュニケーションデザイン部の瀧本有加氏は「コンテンツ作りのミーティングで感じたことは、互いに社内、社外のメンバーだが、依頼する、依頼される関係性がなく、同じ方向を向いた仲間として一体感を感じた」と話した。また、食品研究所のコンシューマーフーズ開発センターの西田昴也氏はチームビルディングについて「ワークショップの段階からメンバー同士が自分をさらけ出すことからスタート。全員が企画にコミットし、全員で課題を解決する動きが生まれ、チーム感が醸成された」。

他社とチームを組んでプロジェクトを進めるのは初めてと言うクラシコムの高山達哉執行役員事業開発部長は、「メンバー全員が、お手並み拝見的なイメージはなく、メンバー同士が相手を支援するスタンスでプロジェクトに向き合ってもらった」。クラシコムの青木社長は「(チームビルディングについて)企業活動で重視することは、ひとつの商品、企画に対していかに多数のカメラで多面的に捉えられるかだ。それには様々な立場の人がいろいろな角度で見えるものを言いあうこと。できる限りフラットな組織で、誰でも発言できる空気をつくるほうが合理性が高い」。また、研究、開発、企画、業務の進め方について「一般的な企業は”研究”から始めるが、我々は全ての仕事を”企画”から進める。制約を取っ払って議論に時間を割き、回収できないと判断した企画は、すぐに辞められるから」と解説。事前制御、事後制御については「事前制御的に何とかヒット商品を作るよりは、ミニマムに試してみれば売れなかったり、売れてもスピードはどうか、生産体制はどうかなどの課題がわかる。最初から当てに行くより、問いと対応を繰り返しで徐々に磨いて行く感覚の方はよい。クラシコム流があるとすれば、結果から学ぶサイクル(事後制御)の感覚を持っていること。我々はプロセスで捨てるのも早い。うまくいくことは最初からうまく行く。うまくいかなかったら違うことを試す。期限を設けないほうが捨てた時のダメージが少ない。捨てる速さが大事だ」と説明した。
トークセッションで味の素の岡本達也執行役常務食品事業本部副事業本部長兼MDC長は、成果報告会を聞いて「会社や事業、商品への愛情の深さや、良くしようとするモチベーションを感じた。会社に、ほんとうの意味でのバケツリレー型ではないスクラム型の文化をつくらなければならない」など述べた。
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