銀座ルノアールは今期(3月期)、原点である「喫茶室ルノアール」を中核とした喫茶事業に改めて注力し、女性層など新規顧客獲得に向けて「喫茶室ルノアール」の新業態を展開していく。
4月18日、取材に応じた猪狩安往代表取締役会長兼社長は「コロナ禍で痛手を被ったが、やっと回復しつつある今、改めて新たな出発をする。我々が70年間生業としてきた喫茶室の新業態を展開する」と意欲をのぞかせる。
新業態は「Aline café et sucreries(アリーヌ カフェ エ シュクルリ)」。
4月25日に1号店「ぷらりと京王府中」(東京都府中市)にオープンした。同店の座席数は全席禁煙の51席。
「アリーヌ カフェ エ シュクルリ」は、「喫茶室ルノアール」のフルサービスや居心地の良さを重視する姿勢はそのままに、南フランスをイメージした明るく家庭的な雰囲気が特徴。
都心のビジネスマンをターゲットにする「喫茶室ルノアール」とは姿をがらりと変え、30代から60代の女性をメインターゲットに設定。これまで「喫茶室ルノアール」では出店が難しかった、駅ビルや百貨店、郊外への出店ができる業態として広げていく。
メニューは、スイーツや南フランス風のフードメニューが中心。ドリンクメニューにはコーヒーやカフェオレ、ハーブティーなどを揃える。
看板メニューには、フランス中南部の郷土菓子であるクラフティを挙げる。牛乳と卵をベースにした生地を焼いて作る、やさしい甘さのスイーツだ。
第二営業部スーパーバイザーの宮下祐一氏は「生地から手作りしているクラフティは、期間限定のメニューも含めて常時8種類用意している。クラフティが食べられるカフェは都内でもかなり珍しい」と胸を張る。
髙野好隆取締役営業本部長兼マーケティング部部長は「『アリーヌ カフェ エ シュクルリ』の1号店は、全店ベースでトップクラスの客数、売り上げを目指している。必ず当社を代表するブランドとして成長させる」と意欲をのぞかせる。
猪狩会長兼社長は「今期中に『喫茶室ルノアール』は3店舗、『アリーヌ カフェ エ シュクルリ』はもう1店舗出していきたい」との考えを明らかにする。
同社は、コロナ禍の外出自粛や行動制限により大きな痛手となった。
「『喫茶室ルノアール』のビジネスユースが減ってしまったため、甚大な影響を受けた」と振り返る。
コロナ禍の苦しい局面では、カンフル剤的な役割として菓子の製造・販売会社であるシャトレーゼとフランチャイズ(FC)契約を締結。シャトレーゼのフランチャイジー(加盟店)として、シャトレーゼの出店および運営などに着手した。
「社員の士気を高めるという側面もあった事業だった。昨秋からは喫茶事業が回復傾向にあり、今期はコロナ禍前に追いつき追い越すような勢いとなっている。このタイミングで、改めて本業である喫茶事業に専念する」と猪狩会長兼社長は語る。
喫茶事業に専念するにあたり、今後はブランドの集約化を計画している。いずれは喫茶業を「喫茶室ルノアール」と「アリーヌ カフェ エ シュクルリ」の2ブランドに絞る予定だという。
同社は以前から「喫茶室ルノアール」以外の新たなブランドの創出に取り組み、「ミヤマ珈琲」「NEW YORKER’S Cafe」など複数のブランドを展開。しかし、近年は複数のブランドが「喫茶室ルノアール」に似てしまうのが課題であったという。
髙野取締役営業本部長兼マーケティング部部長は「役員レベルのトップダウンのアイデアでは『喫茶室ルノアール』に近いものになってしまい、“似ているのであれば『喫茶室ルノアール』だけでいいのではないか”と役員全員が考えていた。『アリーヌ カフェ エ シュクルリ』は、若手社員が一から考えたことで全く新しいものになった」との見方を示す。
4月23日現在、「喫茶室ルノアール」は全国で77店舗を展開。「アリーヌ カフェ エ シュクルリ」を除く「ミヤマ珈琲」などその他の喫茶業態は18店舗となっている。ベーカリー事業の「BAKERY HINATA」は2店舗。FC事業の「シャトレーゼ」は3店舗を運営している。
今後の最重要課題としては、人手不足を挙げる。
猪狩代表取締役会長は「『喫茶室ルノアール』の特長であるフルサービスのためには、優秀な人材が必要。対応策を模索している」と述べる。