砂糖はさとうきびやてん菜など農作物から作られる。寒冷地作物のてん菜は、国内では北海道のみで生産され、北海道畑作農業の輪作体系を維持する基幹作物の位置付けだ。てん菜糖は国内原料による日本の砂糖生産量の約8割、砂糖消費量の約3割を占め、北海道地域経済の発展と雇用確保を担っている。ホクレンは、てん菜種子の供給から砂糖の製造・販売まで一貫した事業展開によりてん菜産業を支えるとともに、地域資源を有効に活用し低炭素・循環型社会の実現に向け積極的に取り組む。食品新聞の取材にホクレン中斜里製糖工場・堂本弘之工場長が応じた。
砂糖の製造工程ではまず、てん菜をスティック状に截断し温水に浸して糖液を作る。糖分を抽出・圧搾したてん菜の繊維分を乾燥・ペレット化したものはビートペレットパルプと呼ばれ、家畜飼料として再利用(リサイクル)される。「工場の発電所タービンから出た蒸気をパルプ乾燥機に供給し、乾燥機から出た蒸気は糖液濃縮用の熱源として再利用(リユース)する。また、ビートペレットパルプは北海道内の酪農家の皆さまにご利用いただいている」(堂本工場長)として、資源を余すことなく有効活用を図っている。
また、糖液の不純物を除去する際に使用する石灰をろ過、脱水したものはライムケーキと呼ばれ土壌改良資材として、工場の排水処理の過程で発生する汚泥(乾燥汚泥)は肥料原料として活用される。「ライムケーキや乾燥汚泥はかつて埋立て処理をしていた。ライムケーキはアルカリ成分が約30%残存しており、土壌のpH調整剤として農作物や飼料の生育に効果的で、持続可能な農地の維持に寄与している。乾燥汚泥は循環型社会構築の観点から肥料登録を行い肥料メーカーで利用されている。最近では、工場近隣地域での融雪剤・堆肥製造の水分調整剤など新たな用途で余すことなく活用されている」としている。
水分を蒸発させて濃縮した糖液は、さらに煮詰めて結晶化させたのち遠心分離機で砂糖の結晶と液体の糖蜜に振り分ける。いわゆる「分蜜」といわれる工程だが、ホクレンは東京大学とてん菜糖蜜を微細藻類の栄養源として活用することで大量培養と生産性向上を目指した微細藻バイオリファイナリーの共同研究に取り組んでいる。微細藻類は培養により細胞内に油脂を生成し、その油脂はバイオ燃料や機能性食品などに活用することができる。
令和4年から大学でのマリンフラスコ(1ℓ)によるラボ培養試験を実施してきたが、令和5年10月からはラボ培養の現地実証を行うため、中斜里製糖工場に10ℓ培養装置を4台設置。培養試験はいよいよ第2フェーズに移行している。
「現時点では、内部目標値をクリアできている。引き続き安定的な培養ができるよう東京大学と取り組み、次のステップに進んでいきたい。時間軸はまだ見通せないが、最終的には製糖工場で産出される糖蜜を使ったプラントを作り商業ベースに乗せることが目標だ」としている。
培養研究には、ホクレンが培ってきた製品製造における殺菌技術や品質管理における無菌培養操作技術、微生物をはじめとする品質検査技術がフルに生かされる。
国の事業を活用して研究目的の達成とともに、低炭素・循環型社会の実現、北海道農業の新たな価値創出に挑戦する方針だ。