トライアルホールディングスのリテールAI開発拠点の1つ「MUSUBU AI」には、東証プライム上場企業を中心に12企業と1団体が入居する。
ここでは月に1回程度「宮若ウィーク」と題して異業種や競合企業間でマーケティング課題など共有している。
5月17日、22年1月に立ち上げ時から参画しているアサヒグループジャパン、日本ハム、花王グループカスタマーマーケティング、カルビー、サントリー、5社の社員が一堂に会した取材会がトライアル協力のもと流通報道記者会で開催された。その一部抄録は以下の通り。
(参加者)*左から順*5月17日現在
◇アサヒグループジャパンの若松正寿Future Creation Headquarters Data & Innovationシニアマネジャー
◇日本ハムの水谷慶司加工事業本部マーケティング統括部マーケティング部ブランドマネジメント課リーダー
◇花王グループカスタマーマーケティングの前川貴正トレードマーケティング部門JBP推進部マネジャー
◇カルビーの松永遼カルビージャパンリージョン企画統括本部リテールサイエンス部部長
◇サントリーの中村佳史広域営業本部リテールAI推進チームメンバー
◇サントリーの中村直人広域営業本部第2支社長
――「宮若ウィーク」に期待すること。
アサヒ・若松 業務が効率化して生産性が上がることを期待している。「スーパーセンタートライアル宮田店」という実証実験の場があり、机上で考えたことを店頭で実行できるとこに非常にメリットを感じている。
日ハム・水谷 メーカーとしては我々の商品がどのようなお客様に買われ、どのような商品と一緒に買われているかにすごく興味を持っている。消費動向を分析することで商品開発や販促施策に結びつけていきたい。
花王・前川 我々の目的は知見の構築・企業間交流・個の成長――の3つ。知見の構築では実証実験しながら検証でき、企業間交流ではface to faceで、しかも深くスピーディーに取り組める。取り組みだけではなく、学びの場にもなると考えている。顧客起点に基づいたショッパーマーケティングを醸成していきたい。
カルビー・松永 リテールDXは社内でも大きなミッションだが、なかなか自社だけでそこの領域をクリアにするのは難しい。ここには、小売業とメーカーのつながりと、メーカー間の横のつながりがある。リテールDXを実現できる人材を育成していくことや、しっかりとお客様を理解して提案していくことに取り組んでいる。
サントリー・中村(佳) “トライアル従業員からのオススメ”という第三者推奨のオリジナルデジタルコンテンツをトライアル様と一緒に制作して、トライアル様の店舗で放映した。「MUSUBU AI」のすぐ近くに実店舗があることから効果検証がスピーディーにできる点にメリットを感じている。
――成功事例は。
日ハム・水谷 トライアル様と「中華名菜」のオリジナルデジタルコンテンツを4パターン製作して店舗で放映したところ、“玉ねぎとピーマンがあればすぐにできる”簡便性を訴求したパターンで圧倒的に新規のお客様を獲得できた。アレンジメニューを訴求するパターンでは、新しいお客様には響かなかったもののリピーターのお客様には一定の響きをみせたことから、新規顧客獲得やリピート獲得など目的に合わせて施策を講じていく必要性を知ることができた。「中華名菜」の実験は昨年1年間実施し、野菜が切っても切り離せない存在であることが明確になったことから、パッケージを刷新した。野菜のイラストをしっかりあしらった。成功事例を横展開できた事例となった。
カルビー・松永 成功事例ではないが、「フルグラ」で時短訴求と栄養・中身訴求を店頭でのデジタルサイネージで1カ月間実証実験したが、1ヶ月間では検証に耐えられなかった。「プルグラ」のライトユーザーの購買期間は1年間の中で1つ買って下さる方、ヘビーユーザは13週の中で1つ買って下さる方と定義しているためだ。宮若での取り組みですごくいいと思うのは、ここでの成功事例を他小売企業様などで横展開していくことが推奨されているということ。
サントリー・中村(直) 私は兼業しているSalesPlus社のアドバイザーの立場で、数社様にサントリーで培った知見をもとにアドバイスさせていただいている。サントリー以外の部分でも、まさに流通を変えていくために横展開している。中堅メーカー様にも成果を出していただけるような場として感じていただければ、より活性化していく。
花王・前川 生活用品と食品の関連性を確認したくて、昨年9月に、オーラルケアブランド「ピュオーラ」で日本ハム様の加工肉とカルビー様のスナック菓子とコラボして実証実験を行ったが、昨年10月の値上げラッシュでノイズが入ってしまった。今後、もう少しブラッシュアップして再度チャレンジしていきたい。横展開については、九州地区での特性や食品企業様との可能性を見極めた上で考えていく。
アサヒ・若松 トライアル様との棚割りを自動化するという実証実験で得られた知見を活用して、当社も品揃えの最適化に付随したサービスをリリースした。アサヒ飲料では、トライアル様が推進しているカテゴリーマネジメントの手法を取り入れている。実際に、カテゴリーマネジメントを推進していくための組織も設立され、そういった意味で、全社共有が図れている。
――トライアルや小売業への不満点は。
サントリー・中村(直) トライアル様への不満点ということではなく、我々はお酒を飲みながらの情報交換を非常に大切にしているのだが、宮若の周りにそのような場所が少なく、今後、宮若がもっと活性化して、お酒を飲める店ができたり、バスなどの交通網が整備されればいいと個人的には思っている。
カルビー・松永 不満というよりも、小売業様といろいろやらせていただく中で難しいと感じているのは、デジタル施策を店頭につなげていくところ。例えば“このようなエンドを作ってほしい”と計画を出したとしても、商品供給の問題もあり実現には至らないことがある。店舗のオペレーションとデジタルのスピードをいかに組み合わせられるかがトライアル様を含め小売業様全体の課題だと捉えている。
アサヒ・若松 商品マスターで業界統一を図りたいという動きがある。マスター管理は非常に手間のかかる作業で、業界統一のマスターができれば非常に効率化につながると考えている。