異例 国産一番茶100%を訴求しない「お~いお茶」 社運かけ“若者取り込み茶業界の発展につなげる”新商品 伊藤園と学生が共創

伊藤園は緑茶飲料ブランド「お~いお茶」から、国産一番茶を100%使用しながらも、それをパッケージなどで一切訴求しない異例の新商品を開発した。

「お~いお茶」ユーザーの高齢化が進み、20代若年層を取り込むことでブランド強化を図り、ひいてはリーフ(茶葉)飲用層の裾野を広げて茶業界の発展につなげるのが狙い。

5月27日発表した伊藤園の安田哲也マーケティング本部緑茶ブランドグループブランドマネジャーは「若者とお茶の接点を強化していくことが茶業界の発展につながる」と述べる。

若年層の支持を得るため、社運をかけて新手法での開発に挑み新商品の発売へと漕ぎつけた。

新たな試みとしては、2019年に開始した千葉大学との共同研究「若者プロジェクト」の枠組みの中で、千葉大学・千葉大学大学院の学生との共創で開発を進めていった。

構想は約3年。

商品の方向性やコンセプトなどは予め設けず、学生と交流するところから始めたという。

開発を担当したマーケティング本部緑茶ブランドグループ商品チームの小口翔平氏は「過去にも若者向けにいろいろ試みたが、どうしても若者に深く入り込めず一過性で終わってしまった。今回、定期的にミーティングを行い、世間話などをして若者の感覚に周波数を合わせ、若者の気持ち立って企画開発できたのが一番の収穫」と語る。

ミーティングを重ねて、ほうじ茶の新商品・新サービスなどさまざまなアイデアが浮上。それらを研究する中、転機となったのは昨年6月に実施した静岡の茶畑の視察会だった。

茶畑で学生に水出し新茶を飲んでもらったことで商品の方向性が定まり急ピッチで開発が進められた。

具体的には「最初は月1回のペースでミーティングしていたが、直近では2週間に1回の頻度でやりとりしていた。重要なタイミングでのミーティングは10回程度。それ以外にもラフな感じでコミュニケーションしていた。真面目に向き合うところと、日常に寄り添いながら飲んだときの感想という2つが重要。この2つのバランスをとりながら味を調整していった」。

開発を進めるにあたり、当初、小口氏には若者が飲むお茶に対して先入観があったが全て一蹴された。

「最初、水みたいなお茶を作ろうと思っていたが、“それだったら水でいい”と返された。そこで今度は味を濃くしたところ、これもダメ出しされた」という。

千葉大学大学院融合理工学府創成工学専攻デザインコース修士2年の柴崎真里(中央左)と栗尾倭さん(中央右)、千葉大学工学部総合工学科デザインコース学部4年の松本ななみさん(左から2番目)と齋藤可南子(右から2番目)、伊藤園の安田哲也氏(右)と小口翔平氏(左) - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
千葉大学大学院融合理工学府創成工学専攻デザインコース修士2年の柴崎真里(中央左)と栗尾倭さん(中央右)、千葉大学工学部総合工学科デザインコース学部4年の松本ななみさん(左から2番目)と齋藤可南子(右から2番目)、伊藤園の安田哲也氏(右)と小口翔平氏(左)

一方、学生のまとめ役を務めた千葉大学大学院の柴崎真里さんは「試飲会では10種類くらいのお茶を飲み比べて“薄すぎる”とか“苦味が強くて飲みづらい”と意見を申し上げ、いろいろな調整を重ねて味わいが決まっていった。メンバーがそれぞれ思い描いていた味を1つの言葉にまとめるのが物凄く難しかった」と振り返る。

試行錯誤を経て編み出されたのは、茶畑訪問時の水出し新茶で学生が感じた“まろやかな甘み”を再現したもの。国産一番茶を100%使用し伊藤園独自の低温抽出技術で開発された。

新商品は、爽やかな香りとともにまろやかな甘味みを実現したことから「お~いお茶 〇やか(まろやか)」と命名。5月29日から発売される。

パッケージは、正面に「まろやか」を象徴する“スーパー楕円”を大きくあしらい、それ以外の情報を極力削ぎ落した。

国産一番茶100%使用の情報は、品名・原材料名の表記と同じフォントで小さく記すに留めた。

「多くの若者に手に取っていただくにはデザインが物凄く重要と考え、今回はあえて記号化した。大手カフェチェーンのロゴマークをデザインしたテイクアウトカップが象徴するように、無駄を削ぎ落したものを持ちたがることに気が付き、丸の形がよいと考えた。そうすることでSNS映えするようにした」(小口氏)と説明する。

丸の形状について、伊藤園としては当初、正円を考えていたが、学生側がこれに待ったをかけた。

千葉大学大学院の栗尾倭(やまと)さんは「正円よりも少し形が崩れた丸みのある柔らかいデザインのほうが、味わいも表現しながら、すごくアイコニックに若者の目に留まると考えた」と理由を述べる。

流通には、大陳するなどしてスーパー楕円を象徴的にアピールする売場づくりを提案していく。
 
「並べてもらうだけでもインパクトのある売場づくりができると思う。可愛らしいデザインを施したケース(段ボール)も用意している」(伊藤園・小口氏)と胸を張る。

若者開拓に向けて460mlの容量にもこだわった。

「大学1コマの授業時間に相当する90分においしく飲み切れる量として460mlの新容量帯を採用した。カウンターコーヒーの容量がだいたい300mlで、1コマの早めの時間に飲み切ってしまうことを考えて、タリーズコーヒー店舗のグランデサイズ470mlあたりが適量と考えた」。

コミュニケーションは、スマートフォンで常日頃から誰かとつながり情報の波にさらされている状態から解放されたいニーズを受けて考案した。強制的に気分を上げたり、強制的に気分を沈静させるのではなく、生活に寄り添い次の一歩を後押しする存在として「まろやか」を訴求していく。

新CMに、曽田陵介さんと松本怜生さんを起用し、ラップの楽曲に乗せて、せわしない日常のひと休みでの飲用を提案する。「SNSでも発信してまずは曽田さんと松本さんのファンにアプローチしていく」。

ラップは、学生側からのアイデアとなる。

千葉大学の齋藤可南子さんは「強い言葉を使うラップではなく、リズム感のあるラップをCMに採用することで“まろやかさ”を印象的に感じていただけると考えた」と述べる。

「お~いお茶 〇やか(まろやか)」(ティーバッグ) - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「お~いお茶 〇やか(まろやか)」(ティーバッグ)

千葉大学の松本ななみさんは同世代に伝えることの難しさを吐露。「自分自身が若者だからこそ若者について分かっておらず、また、自分たちが当たり前と思うことだから、近い世代に伝えるのが難しかった」と語る。

マイボトルニーズの高まりを受けて「お~いお茶 〇やか(まろやか)」のティーバッグ商品も発売する。

SDGsに関心を持つ若者を意識し、紙主体のクラフト袋のパッケージと植物由来の生分解性フィルターを採用した環境にも優しい商品に仕立てられている。

伊藤園は今後も若者プロジェクトを通じて若者とお茶との接点強化に取り組んでいく。