迫るビール減税 今こそ価値向上を サッポロビール 常務執行役員 マーケティング本部長 武内亮人氏

新しい「プレミアム」の定義創る

「大人の☆生。」の世界観とともに、10年以上にわたり異例の成長を続ける「サッポロ生ビール黒ラベル」。ビールの新たな可能性を示し時代を切り開いたマーケターが、この春からサッポロビールのマーケティング本部長に就任した。10月に予定されるビール類の酒税改正もにらみ、風雲急を告げる市場にどう立ち向かうのか。話を聞いた。

「まずはビール強化。お客様にとって魅力的なビールの新しい定義を創り上げるけん引役になりたい。そのために、どれだけ経営資源を投資できるか。思い切ってやっていく」。そう抱負を語るのは3月30日付でマーケティング本部長に就任した武内亮人氏だ。

主力ビール「黒ラベル」のブランドマネージャーとして、妻夫木聡さん出演でおなじみ「大人エレベーター」のCMシリーズを仕掛け、今に続く独自の世界観を構築。「若者のビール離れ」が言われ続けるなか、「黒ラベル」は若年ユーザーをつかみ躍進を続ける。

「ブランドのパーソナリティ、世界観といった、味や価格以外の競争軸で選択肢を提示できたことが大きい。若い方々の動きをみていると、『ビール離れ』という言葉では片づけられない。若者が離れているのではなく、私たちが距離を作っていただけではないか」。

他方で、もう一つの柱ブランドである「ヱビス」にはまだ課題があるとみる。

「停滞する高価格帯の総需要を引き上げるために、中期視点での取り組みが必要。(今年10月の酒税率改正で)減税となるビールは価格が下がる可能性があるが、お客様からみた価値が下がらないよう、お金を払っていただけるストーリーでビールの価値を引き上げる。新しい『プレミアム』の定義を創り上げていきたい」。

「ヱビス」の新ライン「クリエイティブ・ブリュー」を立ち上げたのもその一環。ブランド発祥の地・恵比寿に年内の完成を予定する新ブルワリー「YEBISU BREWERY TOKYO」をはじめとした接点も通じ、これまでにないマーケティング展開を画策する。

「26年」を見据えて

昨年来の物価上昇を背景に、消費者の節約志向はなお強まる気配だ。

「買物の仕方にもメリハリが強まってくる。価値の引き上げへプレミアムバリューの提案が重要に。同時に、リーズナブルバリューやコスパも引き続き重視されるだろう。今春発売した『サッポロ ニッポンのシン・レモンサワー』は、あえてリーズナブルバリューを提案した商品。将来的にはプレミアム価格帯のRTDも当然視野に入ってくるが、今はビール系ではプレミアム、RTDではリーズナブルが一番求められている」。

今秋の酒税改正で新ジャンルの税率が発泡酒と統合されるのに続き、26年にはビール類の酒税が一本化される。

「スタンダードビールと新ジャンルの境界が崩れることで、お客様にとってどっちつかずな商品になってしまうリスクがある。昨年の値上げでは、新ジャンルからRTDへの需要流出が想定以上に進んだ。こうしたお客様を受け止められるご提案が必要になる」。

競合メーカーでは外資系企業出身のマーケターが話題を振りまくなか、生え抜きとしての立ち位置が光る武内氏。後進の育成にも意欲を示す。

「マーケティングは、お客様をどう動かせるかに尽きる。そこを読める人物を育成したい」。

酒類に関しては、必需品ではなく嗜好品であることを前提としたアプローチが必要とも語る。

「『なくてもいいもの』にお金を払っていただくためには、嗜好品ならではのマーケティングが求められる。そこに対するお客様の感度をつかむための共通言語を作り、中期的にサッポロビールの『型』を作っていきたい」。

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