農水省は14日、23年4月期の輸入小麦の政府売渡価格を決定し、米国産、カナダ産、豪州産の5銘柄加重平均で前期比5.8%引き上げの7万6千750円/tとなった。物価高対策の一環として岸田文雄首相が指示した激変緩和措置を適用し、上昇幅を一部抑制した。ロシアのウクライナ侵攻の影響で小麦の国際価格が急騰した22年4月~9月を除く直近6カ月間で算定。1年間の買付価格による算定では13.1%引き上げの8万2千60円/tの見込みだった。
米シカゴ商品取引所による小麦の先物価格はロシアのウクライナ侵攻直後は急騰したが、今年3月は1ブッシェル7㌦前後とピーク時の2分の1程度で推移している。輸入小麦の買付価格も国際価格と同様、ウクライナ情勢を受けて急騰したものの、昨年6月以降はウクライナからの穀物輸出の再開などにより下落。9月以降はウクライナ情勢の緊迫化や円安の影響により6万円台で動いていたが、円高基調に転じたことなどから今年は5万円台で推移している。
輸入小麦の政府売渡価格は、買入価格(買付価格と港湾諸経費を合わせた金額)にマークアップ(輸入差益)を上乗せしたもの。従来ルールでは、国際相場の変動影響を緩和するため価格改定は年2回(4月期、10月期)とし、それぞれ直近6カ月間の平均買付価格をベースに算定してきた。農水省は小麦の買付価格の急激な変動の影響を緩和するために、緊急措置として政府売渡価格の算定期間を1年間に延長して平準化。22年10月期の価格改定では同年4月期の価格を適用し、実質据え置きとした。
価格据え置きは需要業界などからの要請を踏まえた措置で家計の負担を抑えることを目的に講じられたが、消費者物価の上昇抑制に対する効果は限定的という指摘もあった。農水省の試算では、23年4月期の政府売渡価格改定についても消費者物価に与える影響はプラス0.007%ほどに過ぎない。
食品メーカーでは小麦・小麦粉以外の原材料や包装資材などの価格上昇に加え、エネルギーコストの高騰が大きな負担に。原材料として使う小麦粉の価格変動に応じた形で慣例的に価格改定を実施してきた業界もあり、22年10月期の輸入麦価維持を受けた小麦粉価格の据え置きに対して「あらゆる原材料・資材、エネルギーなどのコストが高止まりする中、製品値上げの機会を逸してしまう」との事業者からの声も上がっていた。
政府売渡価格の改定にともない、製粉企業が小麦粉価格を改定するのは約3カ月後。食品メーカーにとっては、秋に向けた価格改定が次のハードルになる。