一般社団法人日本乳業協会はこのほど、酪農乳業専門紙誌が加盟する酪農乳業ペンクラブの冬季研修会を開催。農林水産省畜産局牛乳乳製品課乳製品調整官の松本憲彦氏が「生乳需給の現状及び今後の対応について」と題する講演を行った。
松本氏によれば、2022年4~11月の生乳生産量は508万tと前年並みで推移し、牛乳向け処理量は270万tと前年微減にとどまったが、11月の乳価改定に伴う牛乳乳製品の値上げの影響から12月以降は落ち幅の増加が見込まれる。脱脂粉乳・バターの在庫量は、4~11月に前年並みで推移しバター需要は回復傾向にあるが、脱脂粉乳は引き続き高い在庫状況が続いている。
国は、06年以降の生乳生産量の減少、14年のバター不足等を受けて生産基盤強化策を推進してきた。その結果、生乳生産実績は増加に転じ、20~21年にかけて大きく伸長したが、新型コロナウイルス感染拡大やヨーグルトの需要低迷といった想定外の要因により状況が一変。22年度は約40万tを見込む大幅な需給ギャップが生じていることから、「乳製品在庫の低減」「経産牛頭数削減による生乳生産量の抑制」「消費拡大による需要の底上げ」に取り組む方針を示している。
令和4年度第2次補正予算に盛り込まれた酪農経営改善緊急支援事業(50億円)は、生産者が早期に経産牛をリタイアさせ、一定期間生乳の生産抑制に取り組む場合、生産者団体等の一定負担を要件に奨励金を交付し、需給緩和を受けた生産抑制のための取り組みを支援するもの。これまでの増産支援から一転、生産抑制に舵を切る。
松本氏は「よくも悪くも注目されている事業」としつつ、「報道のなかには後ろ向きな事業、場当たり的な事業だという声もあるが、われわれはそうは思っていない」と述べ、「需給緩和の早期改善が明確な目的。消費者の理解を得て価格転嫁できる環境を整えるために、生産者の方が抑制に取り組む場合に後押しをする手上げ方式の政策」である点を強調した。また、こうした抑制では収支構造が改善しないとされる比較的大きな農家の経営についても「抑制が進み全体の需給が引き締まれば裨益すると考えている」と語った。
新たに令和5年度ALIC(農畜産業振興機構)事業における酪農緊急パワーアップ事業(65億円)では、脱脂粉乳在庫の低減、牛乳乳製品の消費拡大プロモーション、やむを得ず加工仕向けになる生乳に対する補給金等相当額を交付するほか、早期乾乳の推進についても詳細な検討が進められている。