ジャマイカのブルーマウンテンコーヒーは「King of Coffee(コーヒーの王様)」と呼ばれる。
そう呼ばれる理由について、日本外国特派員協会で17日開催された「第5回ジャマイカ ブルーマウンテンコーヒーの日 記念スペシャルイベント」で講演したUCCコーヒーアカデミーの川口雅也講師は「諸説あるが、一説によると英国王室御用達コーヒーが謳われていたため」と説明する。
紅茶のイメージが強いイギリスだが、大航海時代、世界で一番おいしいコーヒーが飲める国であったという。
「ジャマイカやタンザニアなどかつてのイギリス旧植民地国はコーヒーの産地が多く、そういった国々の上質なコーヒーが英国の王室・貴族に献上されて飲まれていたと言われている」と述べる。
イギリスではコーヒーが紅茶よりも古くから栄えていたことにも触れる。
「ヨーロッパで最初に商品として提供されたのは1650年にオックスフォードで開業したコーヒーハウスというのは有名な話。紅茶が提供されるようになったのはコーヒーよりも半世紀以上後で、1717年にティーハウス『ゴールデン・ライアンズ』が開業した」という。
ブルーマウンテンコーヒーのハンドドリップやジャマイカをイメージしたコーヒーカクテルをこの日実演した土井克朗講師はトップバリスタの立場から魅力を紹介する。
「ブルーマウンテンコーヒーはチョコレート・キャラメル・バニラのような甘くて優雅な感じのフルーツや食べ物が連想できるほか、ゴールデンバランスと言われ、酸味・苦味・コクが調和したような飲みやすい点がKing of Coffeeと呼ばれるゆえん」との見方を示す。
コーヒーの味わいは、栽培種・栽培環境・精製方法によるところが大きく、ブルーマウンテンコーヒーは、これらにジャマイカ農産品規制公社(JACRA)の厳格な品質検査を経たものが輸出されている。
JACRAは、ブルーマウンテンコーヒーとして市場に出すことを希望する農家・輸出業者・輸入業者・ブランドオーナーなど全ての関係者への許可証発行を行っている。
ブルーマウンテンコーヒーを構成する主要品種は、風味のよさで定評のあるティピカ品種で、精製方法はウォッシュド(水洗式)が主流となっている。
ブルーマウンテンコーヒーはジャマイカ産コーヒーの中でも、JACRAの定めた標高2256mの内側あるブルーマウンテン山脈の中腹に位置する標高800~1200mの「ブルーマウンテンエリア」と呼ばれる指定地区で栽培されたコーヒー豆のみを指す。
「ブルーマウンテンミストと呼ばれる霧のような雨と高い標高の寒暖差の影響を受けて果物(コーヒーチェリー)の種子が凝縮されて甘く優雅な香りが蓄積される。糖度12度くらいでハンドピッキングされ種子が取り出され、それをウォッシュドで精製することで渋味を感じさせない透明感のある甘味を実現している」と語る。
輸送にあたってはブランディングも兼ねて通気性のよい木樽を世界で唯一採用している。
ブルーマウンテンコーヒーは、ハリケーンなど度々襲ってくる試練と収穫後の厳しい品質検査を乗り越えて出荷されることから「試練に打ち勝った=勝ち豆」と称される。
50年以上、ジャマイカにとって最大のコーヒー市場は日本で、1966/67年クロップのジャマイカのコーヒー生産量(7000袋)の60%以上に相当する4400袋を日本企業が購入契約。
これが、日本がジャマイカ産コーヒーの最大顧客になったクロップで、このうち最初の1400袋が1967年1月9日に出港されたというニュースは、翌日の現地の新聞のトップ記事になったことから、ジャマイカコーヒー輸入協議会は1月9日を日本における「ジャマイカ ブルーマウンテンコーヒーの日」に制定した。
近年の生産量は、リーマン・ショックが起こった2008年からしばらく右肩下がりが続き12年にはハリケーンが直撃し被災。その後、14年から回復傾向にある。
持続的な生産に向けた課題について、川口講師はティピカ品種がサビ病をはじめとする病害虫に弱い点と人手不足を挙げる。
「病害虫耐性に優れた品種の開発も必要。あるいは、木の植え替えを頻繁に行っていく。また、収穫の機械化が非常に難しい環境で、手作業はコーヒーの収穫にとって非常によいことである反面、労働力が限られているため手作業を継続していくのは1つの課題」と説明する。