「春の値上げはバイヤーに渋られた。今回こそはと思っていたが」。こう話すのはパン粉メーカーの経営者。この秋は価格改定を是が非でも実現する覚悟だったが、政府が10月期の輸入小麦売渡価格を据え置いたことで、出鼻をくじかれた格好となった。
2次加工のパン粉は小麦価格が上昇しても、すぐに価格を改定できるわけではなく、早くて1、2か月、場合によっては3か月以上のタイムラグが生じることもある。そのため前回、前々回に続いて大幅な引き上げが予想されていた今秋の麦価が据え置かれ胸をなでおろしているのも確かだ。
実際、1年前に麦価が19%増と10年半ぶりの二ケタ上昇となった際には、「せめて今回だけでも引上げを見送ってくれれば多くのメーカーや流通が助かる」と国の配慮を望む意見も聞かれた。だが、いざそれが現実のものになると戸惑いを隠せない。
昨今はイーストや油脂などの副原料、包装資材などすべての価格が上昇。とりわけ燃料費と物流費の高騰は業界にとって大きな痛手となっている。焼き上げたら完成するパンと異なり、パン粉は焼いたパンをさらに粉砕し乾燥させる。その過程でより多くのエネルギーを必要とする。また、業務用を主体とした業者は自社で配送するところも多く、物流コストが重くのしかかっている。
これまで、業界では小麦粉の価格変動に合わせパン粉の価格を改定してきたが、小麦以外のコストの比率が上昇しており、その習慣が通用しなくなってきた。とはいえメーンの小麦価格が変わらない中で、それ以外のコスト上昇分を転嫁するのは容易ではない。全国パン粉工業協同組合連合会の関全男理事長は「値上げの旗印が失われ、小麦粉以外のコスト上昇分をお願いするのが難しくなっている」と指摘する。
冒頭のメーカーのように、今年春の上昇分をいまだに転嫁できていないメーカーも少なからず存在する。特にスーパーが主体の家庭用では、納価は改善されてもそれが店頭売価に反映されていないケースもあり、結果として競合する他の小売業への値上げ交渉を困難にしている。
前述の通り、パン粉は複雑な製造工程を経て製品となる。昨今はより厳格な衛生管理が求められ、それだけの設備投資も必要だ。安定供給を維持するためにも、小麦粉以外のコストも考慮した適正な価格改定が不可欠である。