一般社団法人日本乳業協会はこのほど、第106回「牛乳・乳製品から食と健康を考える会」を開催した。講師に農林中金総合研究所調査第一部食農リサーチ部部長代理・主任研究員の小田志保氏を迎え、「需要停滞と生産資材価格高騰のなかでの日本の酪農乳業」と題して講演を行った。委員6人とメーカー代表者ら5人が中心となり意見交換に参加した。
日本乳業協会の本郷秀毅常務理事は冒頭、世界情勢を踏まえた日本の酪農業界の現状について説明したうえで、「豊富なデータや研究の実績を踏まえ、課題解決につながる話が聞けるのではと期待している。われわれ業界関係者とは異なる視点からの意見交換を通し、改めて課題などを見いだしていただき、検討を深めるきっかけになれば」と述べた。
委員でFood Connection代表取締役の橋本玲子氏は「日本の酪農乳業の現状や課題を正しく理解することが第一歩。講演を通して日本の酪農乳業や食をどのように守っていけばよいか考えながら皆さんと意見交換したい」とあいさつした。
講師の小田氏は、日本の酪農乳業の独自性として原材料の調達が海外に高く依存している点に言及。20年度の牛乳乳製品の自給率は61%だが、飼料自給率を考慮すると26%にまで低下し、コロナ禍で消費が拡大した調理済み冷凍食品などに使用されるシュレッドチーズなど業務用乳製品の多くも輸入に依存している。
生産費の高騰と販売価格の下落については、新型コロナウイルスやウクライナ情勢を背景に原油価格がオイルショックと同水準まで引き上げられ、飼料原料や干ばつにより米国産牧草が高騰、そのほか為替の影響や海上運賃の状況悪化で最終的な配合飼料価格(工場渡)は2000年以降で最も高い水準に達し、酪農家にとっては19年比で3割増となった。
こうした状況を受け、全国の指定団体と大手乳業メーカーとの乳価期中改定をめぐる交渉では飲用向け1kg当たり10円の値上げとなったが、飲用消費が縮小した場合、余剰分は乳製品に向き、結果として飲用乳価の引き上げ効果は薄れてしまう。一方で、円安によりバターの大口価格は国際価格を上回るものの、その差が縮小していることから積み上がる乳製品在庫と円安が国際競争力を高め、長期的に見ると需給の調整役となる可能性も見えてきた。
今後の課題として小田氏は、牛乳の値上げによる5%の消費減退を予想したうえで、価格変動への対応力強化、高齢化社会に対応した日本乳業の優位性を生かした輸出拡大、海外に依存傾向にある土・飼料の自給率向上、サプライチェーンの透明性や価格交渉力の改善などを挙げた。