〈寄稿〉価格競争を回避する「共感」 SDGs発信の重要性 三枝国際特許事務所 中小企業診断士・柚木正人

企業が存続する上において、SDGsは既に世界の潮流となり、常識となりつつある。サステナブルという言葉を聞かない日はなく、国内外を問わずあらゆる市場において取引の重要な観点となってきている。この潮流は企業の規模を問わない必須要件となる。

取り組み自体が自然となった今は、SDGsで何をするか?ではなく、どう伝えるか?というフェーズに入っているといえる。

エコという言葉は経済的と考えられることが多いが、現代のエコには「持続可能」という付加価値が必要である。SDGsの取り組み効果の高いモノゴトは、大きな価値を提供していることを意味し、社会から受け入れられやすい。特に10~20代のSDGsネイティブ世代にとっては当たり前の価値基準となりつつある。関心というレベルではないということを知っておきたい。

価値の転換はマーケティングにおいて重要な要素であり、競争環境と差別化のあり方の変化を示すものとなる。

例えば、同じような製品・サービスが存在している場合、フェアトレードのように原産地に対して適正な対価を支払っている製品は他の製品よりも高価格となる。これまでであれば、できるだけ仕入れを安くし低価格で提供することがポイントだったが、これからの社会においては、良い取り組みを行っているモノゴトが選考されやすくなっていくと考えられる。

これは価格競争を回避する上でも有効な手段となる。価格で争うのではなく、「持続可能」という新しい付加価値が今後の競争環境のあり方になるだろう。SDGsは複数の課題をかけあわせることで、消費者に新しい問いを投げかける『対話型のマーケティング』を可能にする。

何事もそうだが、いち早い取り組みが差別化の源泉となっていく。同じような製品・サービスの中で、「良い取り組みを行っているのはコレ」という印象づけをしたい。

SDGsを「差別化の武器」とする上で重要となってくるのは、開発過程や製品そのものの品質もそうだが、それ以上にどのように顧客に伝えるか?を考える必要がある。

SDGsを考慮した製品・サービスの効果を消費者に理解しやすい形で、いかに発信するかが重要となる。Webなどで消費者が何かを調べようとした時、企業のHPを見る人は少ない。それよりも、SNSや広告で製品そのものを調べることがほとんどだ。組織としての取り組みはもちろんだが、やはりモノゴトによる価値提供こそが目につきやすく、大きな遡及となる。前述したフェアトレードやエシカル消費(倫理的消費)は分かりやすいメッセージとなる。

消費者は選考に時間をかけない。そのため、取り組みを列挙しただけの説明や解説は注目されにくく、発信には工夫が必要だ。その点、目標と課題の多いSDGsによるマーケティングは発信の手段が多様だ。

具体的に、どのような手段が有効かはさまざまだが、製品・サービスに「ストーリー性」や「メッセージ性」を持たせることはSNS発信にも適しており、取り組みを理解してもらいやすい。もう少し言えば、消費者の「購買行動そのものが価値につながる」といった発信が欲しい。発信に成功したモノゴトは「共感」を生じさせる。これこそがSDGsの利活用といえる。

持続可能な未来のために「やらなければならないコト」という発信は共感されない。楽しさというフレーズも有効な手段だ。最近では企業側も楽しみながら行っているPR活動が多くなってきている。相手を楽しませるには、自らも楽しみながら取り組むという姿勢は共感を生じさせやすい。

新製品の開発だけでなく、既存製品にも共感は存在している。SDGsは資格ではない。学習することではなく、多様な気づきを与えてくれる指標と考えるのが良い。

 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)