我が家の居候

薬味用に育てている山椒の木にある日、小指大のアオムシを見つけた。頭部に眼のような模様が2つ。愛嬌ある姿の主はナミアゲハだった。鳥の餌食にならないようにそっと屋内に保護すると、間もなくさなぎになった。

▼蝶は一度の生涯で二度生まれる。アオムシに羽が生えると思いがちだが、さなぎの中で幼虫の身体を溶かして液体になり、蝶の姿へと再構築する。完全変態の間でも脳にあたる基幹部は残るため、蝶になっても幼虫の時の記憶が蓄えられていると言われる。

▼国内外には一定数の蝶の愛好家がいる。その可憐な姿だけでなくドラマチックな生態に魅了されるからかもしれない。ヨーロッパでは「オーレリアン」と呼ばれ、知識人の趣味として広く認知されている。ただ農業にとっては葉を食い荒らすやっかいな害虫として駆除・予防されることが多い。立場が変われば見方も異なる。

▼オーレリアンとまではいかないが、我が家の居候にも命を全うさせてやりたいと思うようになった。保護してからちょうど10日目の明け方。さなぎから羽化すると縮まった羽を少しずつ伸ばして立派な成虫になった。窓を開けると夏空に向かって勢いよく羽ばたいていった。