新型コロナウイルス禍で在宅時間が長くなったのを契機に、食品用途の「にがり」の需要増加に対する期待が高まっている。にがりは豆腐の製造に不可欠な材料。コロナ禍の巣ごもり消費や内食化に伴い、業務用豆腐の凝固剤としてニーズが伸長したほか、家庭用についても、自炊の習慣化により調理での利用に関心を持ってもらいやすくなり、購買意欲を後押しした可能性がある。メーカーは約20年前の「ダイエットブーム」を経て、市場が急激に縮小した「苦い過去」がある。料理の引き立て役や適度なミネラル補給アイテムとして訴求し、地道な販売戦略で巻き返しを図っている。
食品のにがりの使い道として、ボリュームが大きいのは豆腐だ。インテージSRI+データによると、豆腐類の市場規模(販売金額ベース)は、20年が19年比3・9%増の2千81億円で、巣ごもり需要を受け絹豆腐、木綿豆腐、油揚げ、厚揚げなど種類を問わず前年比プラス。21年は、その反動減の影響が大きく2・1%減の2千37億円と前年を割り込んだ。だが、味付きの白豆腐や豆腐鍋タイプといった「その他」のカテゴリーは0・6%ながら微増となった。インテージ市場アナリストの木地利光氏は「低脂質・高たんぱくで、健康やダイエットに良いとされていることに加え、おかずを一品手軽に準備できる簡便さも支持された」と分析する。
豆腐の平均単価は、直近の約30年間で101円から60円と半値に迫る水準にまで下落し、廉売化の流れに歯止めは掛かっていない。にがりメーカーにとっても利益確保の懸念がつきまとうが、にがりが「日本伝統食の要」であることに変わりはなく、今後も凝固剤のニーズは底堅く推移するとみられる。
家庭用にがりをめぐっては、2004年にTV番組で「にがりダイエット」が特集され、各メーカーのにがり製品売上が急増。特需に沸いたものの、その後、科学的な根拠不足が指摘され、ブームは一気に終幕。販売動向が大きく注目されることはなかった。
一方で、あるSMのデータによると、にがり購入者はリピーターの比率が高い傾向が判明。定番品として品ぞろえする企業もある。また、メーカーには購入や使用に関する問い合わせが定期的に入るなど、一定の市場規模を保っている模様だ。ブーム当時と比較すると売上規模は小さいが、「落ちることなくじわじわと伸びている感じ」(メーカー幹部)と消費拡大に向けて明るい兆候も見られる。
かつてのブームとは一線を画す形で販促活動が展開されており、適量のにがりを加えることで、ふっくらとしたごはんの炊き上がりや煮物の煮崩れ防止、うま味やコクを出すといった効果が期待できることなどがPRされている。