プレミアム瓶ラムネが登場 製造打ち切りになったオールガラス製を進化させて復活 高付加価値商品として業務用に提案 ハタ鉱泉

 ハタ鉱泉はプレミアム瓶ラムネ「HATA PREMIUM」を開発・発売して、これまで手薄だったバー・レストラン・ホテルなどの業務用市場を開拓していく。

 「HATA PREMIUM」の最大の特徴は意匠性の高い容器にある。ガラスびん製造・販売会社の日本耐酸壜工業に依頼し、1989年に国内で生産打ち切りになったオールガラス製のガラスびんを12年かけて進化・復活させた。

 中身は、ハタ鉱泉の主力商品となる飲み口がプラスチック製のオリジナルラムネと同様。昔から一貫して同じ香料を使い続けている。

 ハタ鉱泉は、1946年の創業以来、大手飲料メーカーの受託製造を請け負わず、ラムネ一筋で事業を拡大。近年は海外からの引き合いも強まっているという。

 来年4月に創業80周年の節目を迎え、今回の「HATA PREMIUM」には事業の枠組みを超えたラムネ屋の想いや矜持がにじむ。

左から倉橋香里さん、秦啓員社長、バーテンダーのの浜口和希さん、秦尚久常務取締役
左から倉橋香里さん、秦啓員社長、バーテンダーのの浜口和希さん、秦尚久常務取締役

 7月11日、お披露目会で挨拶した秦啓員社長は「ラムネのおかげでここまで業績を拡大できたということで、ラムネを製造しているものの責務として、オールガラス製のガラスびんをなんとか復活できないかということを日本耐酸壜工業さまにお願いしたのは12年前(2013年)」と振り返る。

 かつてのオールガラス製のガラスびんは、ガラスびんの真ん中にビー玉を入れた後、一度、ガラスびんを再加熱して口部を縮小。その後、ビー玉が真中に落ちた状態の時に、原液と炭酸を入れ、その後すばやく瓶を逆さまにする。そうすることによって、ラムネ液に含まれる炭酸ガスの圧力でビー玉が口部に圧着して栓となり密閉される。

ビー玉で密閉された口部
ビー玉で密閉された口部

 この再加熱に要するエネルギーコストが大きかったことと当時の作業環境がよくなかったことから、国内のオールガラス製ラムネ瓶の生産は1989年に打ち切りとなった。

 「HATA PREMIUM」は単なるオールガラス製の復活ではなく、再加熱を要さずにパッキンで密閉されたという点で進化版となる。

 日本耐酸壜工業の堤健社長は「技術的に完全復活させたわけではなく、昔とは全く異なる新技術を導入した。ガラスびんの内側の形状を工夫してパッキンを内側にはめ込み、パッキンだけで密閉できるようにした。栓をするところまでは割とすぐにできたが、国内の輸送・流通環境に耐えられるようにするまでが難しかった」と説明する。

口部形状を含む内面形状は10回以上の変更を重ねて完成に漕ぎつけた。

 パッキンについては、柔らかい素材の場合、ビー玉が“玉飛び”しやすくなり、逆に硬い素材の場合は冷却の際にパッキンが硬化しビー玉が“玉落ち”しやすくなることから、パッキンの形状と材質の形状を10回以上変更してパッキンとガラスびんの最適なバランスを追求した。

 堤社長によると、ラムネ用のビー玉を製造している会社は日本耐酸壜工業を含めて国内に2社しかなく、ガラスびんを逆さにして密閉するオールガラス製専用の製造ラインを持つのはハタ鉱泉のみ。

木製玉押し栓
木製玉押し栓

 生産数量に限りがあるため、高付加価値商品として訴求しガラスびんの魅力も伝えていく。

 「ガラスメーカーであるので、飲み口はガラスであってほしいという思いが強い。飲み口がガラスだとやはりおいしい。今回復活させたのは、売上げとかではなくて情熱によるもの。単にガラスのよさを知っていただきたい。ハタ鉱泉さまも同じ想いだと思う」と堤社長は力を込める。

 ビー玉を押して開栓するための押し栓にもこだわった。

 プラスチック製玉押し栓のほか、“ただラムネを開栓するだけの道具にしたくない”あるいは“所有する喜びを感じられるものにしたい”との想いから、手にフィットする形状、開栓に最適な玉押し部分の長さや直径を選定し試作を重ね、最終的に職人が木材を一つ一つ削り出して作る木製(ビーチ材製)玉押し栓も取り揃える。

ソルティドッグ風のカクテル(左)
ソルティドッグ風のカクテル(左)

 「HATA PREMIUM」はラベルレスとなっておりケース(1ケース20本入り)のみで販売。バー・レストランなどの料飲店に卸す際、1ケースにつき木製(ビーチ材製)玉押し栓1個付けることを想定している。

 ハタ鉱泉の秦尚久常務取締役は「業務用市場は当社の非常に弱いところ。ラムネやシャンメリーは季節性が強い商品で一年中売ることが難しいが、業務用は冬場の需要も獲得できる。これを機に営業をかけていって名の通ったところに導入していただき“あそこに行けば飲める”といった具合にご案内できるように広げていきたい」と意欲をのぞかせる。

 そのための施策としては、オールガラス製を前面に押し出して高級感や本物志向、体験価値を追求する姿勢を訴求し強固なブランドロイヤリティを構築していく。

 ターゲットは20~30代の情報感度の高い層。日常のちょっとした贅沢や気分転換を求めるシーンに寄り添って提案する。

 本社営業部の倉橋香里さんは「単なる飲料ではなく、高級な食事体験や特別な瞬間に寄り添うガストロノミー飲料になることを確信している」と胸を張る。

 レストランに向けては高品質なノンアルコール飲料の選択肢の1つとして提案し客単価のアップに貢献していく。

 ホテルでは、ミニバーやラウンジでの特別な日本のおもてなしの演出のほか、ラグジュアリーホテルのVIPルームでのウェルカムドリンクとしての提供を想定。

 百貨店での展開については、ギフトコーナーやデパ地下食品フロアでの販売を思い描く。

 お披露目会では、バーテンダーの浜口和希さんが「HATA PREMIUM」を使ったラムネカクテルを実演。その1つがガラスびんの飲み口を活かし、飲み口に塩を散らしてからレモンを絞って香りづけをしたソルティドッグ風のカクテルとなる。

 「塩味が加わることによってラムネ本来が持つ甘味を最大限に引き出した。酸味もより強くなるので、少しだけレモン果汁を入れ最後にレモン果皮油を飛ばしてよりレモン風味を強くさせた」と浜口さんは語る。

過去展開されていたガラスびんのリターナブル瓶
過去展開されていたガラスびんのリターナブル瓶

 夏場は認知獲得に向けてマーケティング・キャンペーンを展開する。

 7月18日には、プール付きのリゾートタイプのアパホテル(全国11ホテル)でプール利用者先着8000人を配布。
 8月2日から15日にかけては東京ミッドタウン六本木のASHIMIZUイベントで1000本を配布する。8月から12月にかけてSNSキャンペーンも実施する。

 「HATA PREMIUM」はワンウェイ瓶となる。「びんtoびん」リサイクルされ環境にやさしい容器であることもウリにしていく。

 過去展開されていたガラスびんのリターナブル瓶については「ガラスびんの中のビー玉が内面を傷つけ、炭酸飲料による内圧に耐えられなくなって割れてしまったことがあったので中止となった」(日本耐酸壜工業の堤社長)という。

 ハタ鉱泉は終戦後まもない1946年、大阪市都島区の小さなラムネ屋から清涼飲料水製造販売業のハタ鉱泉所を創業。創業者は秦啓員社長の父・秦晴一氏。

 創業後、グローバル飲料ブランドの上陸やリターナブル瓶の販売先である銭湯やパン屋、駄菓子屋の減少、リターナブル瓶を導入しないスーパー・コンビニの増加など様々な時代の荒波にもまれ、ピーク時に2000社以上あった同業者は激減。

ハタ鉱泉の主力商品となる飲み口がプラスチック製のオリジナルラムネ
ハタ鉱泉の主力商品となる飲み口がプラスチック製のオリジナルラムネ

 そうした中、ハタ鉱泉は方向転換を図り、当時売上構成比の低かったワンウェイのラムネびんやペットボトルラムネに注力したことで事業を継続。

 加えて、汎用びんから自社のロゴを刻んだオリジナルのびんを採用。2008年頃から国内外から需要が急増し「一年中、製造に追われる状況が続いた」(秦社長)という

 生産能力を高めるべく、2020年に最新鋭の製造設備を備えた完全子会社のフジコーポレーション(愛知県安城市)が稼働開始。本社工場(大阪府大阪市)の生産ラインを増強したほか、同業者の生産協力を得て、現在、全国に安定供給しているほか世界80ヶ国に出荷している。