ビール類酒税改正を背景とした新ジャンルからの需要流入も追い風に、商品のバラエティがますます広がる缶チューハイなどのRTD市場。中心を占めるレモン系フレーバーが引き続き活況を呈する一方、成長トレンドが続く無糖チューハイ、ジン、本格焼酎など原酒ソーダへの挑戦も活発だ。
さらに「酔いたくない」ニーズの受け皿として拡充が進む低アル商品、アサヒ「未来のレモンサワー」に象徴される先鋭的なアイテムまで、市場はまさに百花繚乱、多士済々。メーカー各社の戦略を探る。
コロナ禍で高まった家飲み需要の一段落から、伸長傾向が23年にはいったん横ばいで落ち着いたかに見えたRTD市場。だが、昨年には再び5%程度の拡大に転じたとみられ、成長基調は継続している。
これを牽引するのが、「無糖チューハイ」カテゴリーの急成長だ。
キリンビールの調査によれば、同カテゴリーのRTDに占める販売容量シェアは20年~24年9月にかけて約6倍の24.3%に拡大。商品名に「無糖」を含む商品の数は約5倍の219に増加している。
無糖チューハイ飲用経験者のうち6割近くが、最近になって飲用機会が増加したと回答。とりわけ20代で増加が顕著にみられた。
20年の発売以来、このカテゴリーを牽引するのが同社の「氷結無糖」シリーズ。昨年には最高販売数量を更新し、過去20年間に発売した同社RTDブランドのうち最速で13億本を突破した。
近年RTDに求められる「甘さが抑えられていそう」「食事と一緒に楽しめそう」といったニーズに、余計な甘さがなく飲みごたえがある無糖チューハイが合致していると同社はみる。
他方で、近年増えているのが「お酒を飲みたいけど酔いたくない」という一見矛盾した要求を抱えるユーザーだ。
宝酒造の調べで、こうした消費者インサイトの存在が浮かび上がった。同社では昨年9月に「発酵蒸留サワー」3品を発売。同社の強みである焼酎技術を生かし、度数3%でも酒の飲みごたえや満足感が楽しめる、甘くない缶チューハイとして開発した。
甘くない、そして低アル。2つのトレンドにまたがる領域は、これまでRTD市場の空白地帯。
「お酒好きの人でも、翌日のことを考えて飲む量を控えることがある。3%にもチャンスがあると考えた」と説明するのは、同社商品第二部企画課長・廣石荘介氏。新需要創造型商品として流通からの評価も高いという。
ただ「同価格商品と比べてリピート率は高いが、トライアルが取れていないのが課題」と話す。そこで商品名にサブネームを追加。〈タカラ「発酵蒸留サワー」~平日の3%~〉とし、飲用シーンを想起させコンセプトを分かりやすく伝えるパッケージにリニューアル。4月8日から新発売する。
キリンも、これまで「氷結」では攻められていなかった低アル領域に、昨秋から度数3%の「華よい」ブランドで本格参入。飲みすぎに気を付けながら、お酒を気軽に楽しみたいニーズの獲得に動く。
アサヒが昨年にエリア・数量限定で発売した「未来のレモンサワー」も話題を集めた。
大ヒットした「スーパードライ生ジョッキ缶」のフルオープン缶をチューハイに応用し、開けるとスライスレモンが浮き上がる仕掛け。“世界で一番ワクワクするビール会社”を掲げる同社の意欲を感じさせる挑戦だ。今年9月には全国で数量限定発売に踏み切る。
飲食店→家庭の流れつかむ
調査会社のミンテルジャパンが昨年11月に発刊した「アルコール飲料トレンド―日本―2024年」によれば、コロナ後のグローバル酒類市場における特徴的な変化として「オフプレミス」(家飲み)へのシフトが挙げられるという。日本も例外ではなく、ビールの消費量はパンデミック前の19年にはオンプレミス(外飲み)がオフプレミスを上回っていたのに対し、20年のコロナ禍以降はオフプレミスの割合が増加。今も以前の状態には戻っていない。
これとともに、飲食店で人気が出た酒類が家庭で飲まれるようになる現象が目立ってきた。
その筆頭であるサントリー「角ハイボール缶」に加えて、同社が業務用ルートを中心に大阪や沖縄などで販売を急拡大したジャスミン焼酎「茉莉花(まつりか)」が、若者の間に「ジャスミン焼酎のジャスミン茶割り=JJ」の飲み方で浸透。これを家庭用にRTD化した「JJ缶」が昨春に登場し、若年層の支持を急速に広げた。
「濃いめのレモンサワー」「男梅サワー」をはじめ個性的なブランドポートフォリオを展開するサッポロビールでも、飲食店→家庭の流れを意識した新商品を投入。2月に新発売した「サッポロサワー 氷彩1984」は、居酒屋で愛される樽詰商品の「氷彩サワー」を家庭用の缶として商品化したものだ。
これまで食中酒にレモンサワーや無糖チューハイなど無難な選択をしていた人や、自分の定番ブランドを探求している人に向け、確かなおいしさで高い満足感と納得感の提供を目指す。4月15日からは初の限定品「晴れやかライム仕立て」が登場する。

またもう一つの注目すべき動きが、RTDの新たな選択肢として参入メーカーが広がるジンベースのハイボールやサワーである。
サントリーが「翠ジンソーダ缶」で切り開いてきたこの領域に、昨年4月にはアサヒビールが柑橘フレーバーの「GINON(ジノン)」を投入。さらにキリンビールでは、8月に発売した「プレミアムジンソーダ 杜の香」を今春に早くも刷新したほか、昨秋に同ブランドで期間限定発売したジントニックも4月から通年化する。
キリンでは、本格麦焼酎原酒を一部使用した「上々 焼酎ソーダ」も一昨年から展開。「食事に合う」を共通項に、チューハイやウイスキーハイボールなど既存RTDの文脈とは異なる新鉱脈の開拓に向けた動きが加速しつつある。
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