持続可能な農業目指すカリフォルニア・アーモンド キャンポス・ブラザーズ社に聞く

健康・美容のために食べるのはもはや常識。ヘルシーなナッツとしてのイメージがすっかり定着したアーモンド。ミルクやバター、パウダーと多彩な製品が家庭にも浸透し、用途やシーンはますます広がりをみせる。

世界最大の生産量を誇るのが、カリフォルニア産アーモンドだ。同州でもトップクラスの供給量を持つ独立系パッカーで、日本ではデルタインターナショナルが総代理店を務めるキャンポス・ブラザーズ社。日本を最重要マーケットと位置づけ、自社農園で栽培、自社工場で加工した安心・安全・高品質なアーモンドを出荷している。

同社のスティーブン・キャンポス社長=写真㊨=とクレッグ・デュアー副社長=同㊧=に、マーケットの近況や生産の見通しについて聞いた。

太陽光と水を効率利用 「ハチにやさしい農業」も

たわわに実ったアーモンド - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
たわわに実ったアーモンド

――貴社の沿革について教えてください。

スティーブン・キャンポス キャンポス・ブラザーズ社は1957年、私の父・トニー(現会長)が創業。1980年代にアーモンド栽培を開始し、現在では日本向けにおける全米No.1のサプライヤーとなった。当社にとっては、日本が最大の輸出市場。農園から工場に至るまでイノベーションやサステナビリティに力を入れており、水や農薬を効率よく利用する技術に強みがある。

――カリフォルニア・アーモンドの近年の生産状況について。

クレッグ・デュアー  ここ数年は作付面積が縮小に転じつつあり、1エーカーあたりの収穫量も横ばいまたは漸減で推移している。アーモンドの価格低迷が続いていることに加え、人件費や生産コスト上昇、州による「シグマ」(後述)の施行に伴う影響を受けている。ただここ数年は2ケタのペースだった生産コスト上昇も、現在は1ケタ台と緩やかになってきている。

――「シグマ」について教えてください。

スティーブン カリフォルニア州の法律のひとつで、地下水の管理を目的としたもの。地下水をどれだけくみ上げたかについて、以前は管理されてこなかった。だが近年はカリフォルニアの水不足の影響から地下水の水位が低下しているため、水位を一定に保つよう行政が管理するために導入された。

地下水を利用する事業者は、くみ上げたのと同じ量の水を戻すことが定められている。くみ上げた量を常にモニターして、その分の水を購入して土地に戻さねばならない。

クレッグ カリフォルニアには、水の調達先として地下水のほか、州政府からの購入、連邦政府からの購入という3つのルートがある。ただ州内には地下水しか入手できない「ホワイトエリア」と呼ばれる地域があり、アーモンド農園の17%がそこに位置している。シグマが施行されると、水を戻せない地域では作付けができなくなり、難しい状況になるとみられている。

カリフォルニアの水の調達サイクルでカギになるのが、山頂から流れてくる雪解け水。年によっては急激に気温が上がり、一気に流れてくることがある。まれに州政府からこれを分散させるための要請があり、当社にある16の貯水池にためて使うようにしている。

――貴社のサステナビリティへの取り組みは。

クレッグ 太陽光によって11メガワットの発電を行っており、これにより農場や工場のすべての電力を賄える。また水を効率利用するノウハウも独自に蓄積。ICチップを使ったシステムを活用し、個々の木に最適な量の水を供給している。これにより水の使用量を40%削減しながら、生産量を維持できている。

さらにビー・フレンドリー、つまりハチにやさしい農園づくりなど、近年の取り組みを継続する方針だ。

ハチによる授粉が欠かせない - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
ハチによる授粉が欠かせない

――「ビー・フレンドリー」について詳しく教えてください。

クレッグ アーモンドをはじめとした果樹の多くは、ハチの授粉活動によって収穫量が大きく左右される。米国ではハチのレンタルを行う専門業者がいるほどで、その保護が非常に重視されている。キャンポス社では、ハチにやさしい農業を第三者機関が認定するビー・フレンドリー認証を取得。ハチが健康でストレスなく過ごせるよう、責任をもってケアに取り組んでいる。

――アーモンドは捨てる部分がないということですが、実以外の部分はどのように使われているのですか。

クレッグ まず除去された外皮(果肉)は甘みがあり牛などが好むため、家畜の飼料になる。また殻は寝具やタイヤの原料として利用。古い木は昔は燃やして捨てていたが、近年はCO2削減の観点から、たい肥にして土に戻している。

――23年産の需給状況はいかがでしたか。

クレッグ 前期からの繰り越し在庫が非常に多かったことと、当初は26億ポンドと増産が予想されたことから、生産コストを下回る価格水準に下落してしまった。このため毎月2億ポンドという過去にないペースでの出荷を、11か月連続で記録。24年産の二次予想が28億ポンドと、当初予測の30億ポンドより2億ポンド少なかったことで後半には価格が上昇に転じた。利用可能な在庫も減少したことで、バイヤーらは必要とするスペックを手当てするのに苦労している状況だ。

――今シーズンの天候や生産量の見通しについて。当局の最終予想では前年比13%増とされていますが、この数字をどうみていますか。

クレッグ 今年の夏にかけては気温が高く乾燥した天候が続いているが、その影響についてはまだ何とも言えない。ただ過去数年よりも早く収穫できたり、殻をむきやすくなることに期待している。13%増という予想については妥当とみている。

台頭するインド市場 中東もポテンシャル高く
踊り場の日本市場 再成長へイノベーションを

――世界の国・地域別需給動向について。

クレッグ インドが非常に強い成長段階に入っており、今後数年はこの勢いが続くだろう。これまでインドは輸出先としてさほど注目されてこなかったが、過去3年間に躍進したことでにわかに存在感が高まっている。高所得層だけでなく中間層もナッツを食べるようになってきたのが大きな背景で、今後も伸び続けるものと期待される。

また中東も緩やかな成長ポテンシャルを持っているほか、イタリア、ドイツも力強い成長を継続中だ。他方でカリフォルニア・アーモンドにとって最大マーケットである米国は、近年の成長が緩やかになっている。新しいマーケットとして、モロッコやトルコに大きな将来性が見込まれる。米国との関税問題が解決すれば、有力な出荷先として躍り出てくるだろう。

キャンポス社の広大な農園 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
キャンポス社の広大な農園

――今後の戦略について。

クレッグ キャンポス社にとって、日本は一番の輸出マーケット。ベーカリー、菓子、飲料など多岐にわたる分野での利用には目を見張るものがある。最近はカカオ価格の上昇もあり、その代替としてアーモンドプラリネの利用拡大にも期待したい。

――日本では健康・美容のために食べるユーザーの拡大から、ナッツ市場が10年以上にわたり拡大を続けましたが、ここ数年は伸び悩みの傾向が強まっています。再成長に向けた課題は。

クレッグ イノベーションが必要だと思う。日本のメーカーはすでに取り組んでいるが、さらに加速させる必要がある。カリフォルニアのアーモンド産業も、もっと成長していかねばならない。ミルクやオイルといった副産物による新製品開発にも、さらに力を入れたい。

――大統領選の影響については。

クレッグ いい質問だ(笑)。だが過去にも歴代政権の下で業界は成功を続けてきたので、これからも全く関係ないだろう。

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