需要が年末の短期間に集中する際物商材の鏡餅。「除夜の鐘が鳴れば価値はゼロ」とも言われるだけに、生産や仕入れではきわめてシビアな需要予測が要求される。例年、商戦期間中の追加発注への対応に苦慮してきた業界では、今年は「10月31日」を受注締切日に設定することを決めた。
「クリスマスケーキはクリスマス翌日でも半額なら喜んで買っていただけるが、鏡餅は正月に半額にしても買おうという人はいない。SDGsの観点からも資材などの廃棄ロスの現状は看過できず、業界として問題提起したい」。
全国餅工業協同組合の佐藤元理事長(サトウ食品社長)が5月18日の会見で述べた。この日は同会と日本鏡餅組合、全国包装鏡餅協議会が連名で、鏡餅の受注締切日設定を発表。今年は10月末日をもって、流通からの受注を締め切る方針を明らかにした。締切日の設定は初の試み。
12月の人員確保「もはやギブアップ」
これまで業界では年末間際でも可能な限り出荷を行うため生産体制を構築し、スーパーなど流通各社からの要望に応えてきた。ただ限られた期間の販売見込み精度を高めることには限界があり、過剰生産が常態化していた。
決定の背景には「昨今の人手不足もあり、12月に入ってからも生産するための人員の手配はもはやギブアップ状態」(佐藤氏)という実情もある。締切日の設定により、生産に必要な人員を確保したうえで需要に応じた生産体制の最適化を図るねらいだ。
締切日は強制ではなくメーカー各社の自主性に任せるが「クリスマスケーキなどもかなり早い段階で受注を締め切っており、バレンタインチョコに至っては前年の9月と聞いている。鏡餅だけそれができないということはないと思う」(同氏)。
かつては売れ残った鏡餅の返品を受け付ける慣行もあったものの、90年代半ばまでに各社で廃止が進んだ。
「今回もそれと同じこと。昨今は流通業界でも働き方改革が進む一方、メーカーでは急な注文に対して残業などでこなしていたが(人手不足で)それもできなくなってきた。果たしてこのままでいいのか。私たちも時代に乗り遅れないよう努力していきたい」(日本鏡餅組合 樋口元剛理事長=たいまつ食品社長)。