清酒「獺祭」 米国酒蔵が来年始動 「市場創造に挑戦」旭酒造・桜井社長

清酒「獺祭」醸造元の旭酒造はかねてより米国ニューヨーク近郊に建設中だった新酒蔵が2023年春に稼働する見通しとなった。桜井一宏社長は本紙に対し、「日本酒業界全体で考えても新たな挑戦と認識している。製造量は初年度700石(1石=180ℓ)、約10年で7千石規模を目指す。現在は市場環境の変化が激しく様々な判断が難しい局面だが、新たに立ち上げる『DASSAI BLUE』ブランドで市場を創っていく」と意気込みを語った。

「DASSAI BLUE」来秋に披露へ

米国酒蔵は、23年1月にも引き渡しが行われ、一連の許認可などを経て3~4月頃に酒造りを開始する予定。新酒は5月頃に出来上がってくると見られるが、まずは新施設で酒質を磨き上げ、23年9月頃に酒蔵のお披露目をグローバルに行うことを計画している。運営スタッフは、日本からは桜井博志会長(約3か月間駐在予定)をはじめ、前蔵長など醸造・瓶詰めに精通した蔵人3人を派遣。現地ワーカー6人の採用も決まっており、中長期的な視点で技術の伝承に取り組む。

初年度の製造量は700石、将来的には最大7千石を計画。国内同様、純米大吟醸酒のみを醸造する。

新ブランド「DASSAI BLUE」の構想について、桜井社長は「現地の環境で最高の品質を追求するのはもちろんだが、新しい市場を創るには今は正解がない。ラインアップなども試行錯誤しながら進んでいく。直近は人件費など想定以上のコスト高が課題となっており、最適な形をとりながら見極めていきたい」。なお、酒米は従来通り山田錦100%。当面は日本産米を主力に仕込み、米国産米は様々な取り組みで品質向上を図りながら使い方を探っていく。

前期売上16%増、国内回復と米国牽引

22年9月期の売上高は164億円、前年比16%増、数量は約5千700㎘(約3万1千600石)。うち、輸出売上は71億円、2%増。数量は約2千700㎘(約1万5千石)だった。輸出は近年の高成長に比べると小幅な伸びだが、全体的な品薄状態の中で国内の需要回復とバランスを取った影響がある。

国・地域別では、最大ボリュームの中国向けがゼロコロナ政策に伴うロックダウンで減少したものの、2番手のアメリカは「磨き二割三分」など高価格帯が牽引して伸長。シンガポールや台湾などのアジア圏も順調だった。

新年度に入り、「海外は米国酒蔵に注力する一方、各国ごとの状況変化にあわせてアクセルとブレーキを踏み分けていくことになる」(桜井社長)。その上で、22年に話題となった「NYオークション出品」「NFTアートとコラボ」のような富裕層・知識層へのブランド訴求は一層充実させていく。国内は、コロナ禍で縮小した飲食店向けの需要を活性化するため、入り口となる「45」から、フラッグシップである「磨き二割三分」までの使いどころを改めて見直す。最大のパートナーである酒販店と二人三脚で主に個人経営の飲食店を深掘りする。