熱中症対策には、普段の生活の中でカラダの水分を常に保つ意識が重要となる。
脳や心臓などの臓器の深部体温は約37℃が理想の状態。これは生命活動に欠かせない酵素が最も活性化する温度であり、37℃より高温・低温になると酵素活動が保てず脳や内臓の働きが低下する。
運動時や暑熱環境におかれ体温が上昇すると、発汗により熱を放散させることで約37℃に保たれる。熱産生と熱放散のバランスをとることで体温調節ができており、この体温調節ができなくなる状態を熱中症という。
発汗により、水分とともにナトリウムが失われることから、熱中症対策には、通常の生活では水分補給、さらに運動などの発汗量が多い状態には水分に加えてナトリウムや糖の補給も欠かせない。
水分やナトリウムは食物からも摂り入れられることから、普段の生活では、食事をして適度に飲料を飲んでいれば支障ないと言えるが、地球温暖化で暑熱環境におかれる機会が多くなると水分やナトリウムの補給を意識的に行う必要がある。
5月16日、熱中症対策セミナーで大塚製薬ニュートラシューティカルズ事業部製品部の岩﨑央弥氏は「近年、地球沸騰化という言葉も生まれ、2023年には40℃と体温を超えるような気温が記録された。気温が上がることで熱中症のリスクは高まり、23年は熱中症搬送者数が過去最高に迫る9万人強となった」と警鐘を鳴らす。
セミナーでは、これからの熱中症対策として、暑熱順化(しょねつじゅんか)・水分補給・身体冷却の3つを紹介。
このうち暑熱順化と水分補給が予防的措置となり、身体冷却が脱水状態に陥ったときの措置となる。
熱中症は脱水状態から始まる。脱水状態で措置をとらず体温が上昇し元に戻れない致死的な障害を起こしてしまうのが最悪の事態となる。
暑熱順化とは、暑さにカラダが慣れされることで、それには運動により体水分(体液)の貯蔵庫の役割を果たす筋量を増やすことなどが有効されるが、いくら暑熱順化をしたとしても脱水になってしまったら元の木阿弥と指摘するのは、体温と体液の研究に関する第一人者の永島計教授(早稲田大学人間科学学術院体温・体液研究室教授)。
「普段の生活の中で脱水にならないように生活に気をつけるのがとても大事」と永島教授は呼びかける。
カラダに入る水分量は2.5L。健康成人で、快適な環境で事務作業をしているような生活を想定すると、1日に2.5Lの水を食物と飲料水から摂取し、その同量を尿・大便・不感蒸泄(皮膚や呼吸などから失われる水分)で排出している。
脱水量は、体重の減少率によって推し量られる。
減少率3%で、口渇(こうかつ)や唇の乾燥、5%で頭痛、6~7%でめまいが起こるとされる。
ただし、初期段階の口渇においても「脱水してある程度時間が経ってからでないと把握するのは難しく、また人間の口渇はかなりいい加減なので、何かしていたりすると気づかなかったりする」ことから、脱水の1つの指標として排尿を推奨する。
「例えば午前中にトイレに行って、昼過ぎになってもトイレに行っていないと脱水の恐れがある。健常者は自分の尿量が大きな指標になる。色の濃い尿や強い臭い尿も注意が必要」と語る。
高齢者は脱水になると皮膚の張りがなくなることから「介護の現場では皮膚も観察してもらうといい」という。
地球温暖化が進み40℃を超える気候が常態化していることについては、自らの感覚ではなく、湿度・周辺の熱環境・気温の3つを取り入れた暑さ指数(WBGT)を目安にすることを勧める。
「例えば高齢者は環境がアセスメント(評価)しにくいのでWBGTを使うといい。運動の現場に用いることも大事」と述べる。
運動時など短時間に大量の汗をかく場合は、ナトリウムと糖の摂取も欠かせない。
主要な糖であるブドウ糖は、腸管内でナトリウムが同時にあると速やかに吸収され、水分もそれらに引っ張られて吸収される。
「長期的に言えば、ご飯を食べて水を飲めばいいのだが、運動や労働の現場で急性に大量の汗が出る場合は、腸管から早く吸収されるような水分摂取がとても大事。ナトリウムと糖分があるとたくさん吸収できる」と説明する。