日本ワイナリー協会の長林道生理事長(メルシャン社長)は年末にあたって会見を行い、ワイン業界の今年の回顧や来年の課題について語った。
23年の市場を振り返り「コロナ禍で大きなダメージを受けたワイン業界も、飲食店における需要回復やインバウンドの再開で状況は徐々に改善。銘柄によっては好調な伸びを示しているものもある一方、原料や資材価格の高騰による影響もあり、厳しい状況は続いている」と報告。
業務用はいまだコロナ前の水準に達していない。長林氏は「業務用市場の縮小は、その比率が高いワインにとって経済的な影響だけにとどまらず、長期的にみてワインを楽しむ機会の喪失につながりかねない。日本ワインについては、消費者の日本ワインに対する関心をより高め、ECでの販売力を強化するなど、業界全体で知恵を出し合い、一丸となり行動していく必要性を感じている」と訴える。
令和6年度税制改正要望として「日本ワインに対する酒税の軽減税率」「ワイン等の関税の撤廃に当たっての中小ワイナリーヘの配慮」「ワインの低アルコール分のものに対する低額税率の適用」などを引き続き訴える。
長林氏は「中小ワイナリーの大半が専門に製造する日本ワインは、国産ブドウ100%。海外産原料に比べて約3.8倍の価格差があり、製造コスト面で大きなハンディキャップを負っている」として、経営基盤の脆弱な事業者の支援や国産果実の生産奨励のためにも、新たな軽減税率制度の導入を強く要望する考えを述べた。
さらに「国内ワイン市場では輸入ワインがおおむね7割を占め、関税が撤廃される国が増えて安価なワインの輸入が一層増加すると、中小ワイナリーに追い打ちとなりかねない。農家を含む地域経済の活性化にとっても大きなマイナスだ」と説明。ワイン関税撤廃に当たっては、激変緩和のため一定期間の猶予などの措置を設けるよう要望しているという。
新規の要望項目である「果実酒に使用できるオーク形状の限定解除」は、果実酒に使用できるオークはその形状がチップ状または小片状のものに限定されているため、環境面、コスト面に優れた作業効率の良い大型のオークも使用できるよう限定解除の要望を行うもの。
長林氏は来年のワイン市場について「経済活動の正常化に伴う雇用・所得環境がさらに改善されることで、個人消費の増加につながることを期待する。またECチャネルの成長、各地のワイナリーを中核としたツーリズムなどのワイン体験機会の再開も追い風に、市場は中長期的には成長するものと思っている」と展望。
全国で増加を続けるワイナリーが、ワインを体験する中核拠点として地域経済をけん引し、ワインの魅力を多くの消費者に伝える原動力になることに期待感を示した。
そのうえで「酒類の消費環境は厳しい状況が続くが、国内ワイナリーの新規開業の流れも依然として続いている。日本ワインの評価が世界的に高まり、国内の事業者による海外市場に向けた日本ワインの輸出が増えていき、将来的に世界のワインと肩を並べるような状況になることを願っている」と力を込めた。