但馬屋珈琲店を運営するイナバ商事は、東京都立川市にコーヒー焙煎所「但馬屋珈琲店 東京立飛焙煎所」を新設して高まる需要に対応する。
同社はこれまで直営店舗にある計2台の小型コーヒー焙煎機で店舗と卸売事業のコーヒー豆を焙煎。既存顧客と新規顧客の両方から引き合いが強まる中、需要に追い付かない状況が続いていた。
焙煎所が稼働開始した10月31日、取材に応じたイナバ商事の倉田光敏社長は「小型焙煎機2台をフル稼働して対応していたが、需要に追い付かず欠品や納品遅れで既存のお客様にご迷惑をおかけし、新規のお取引のお話をいただいた際にはやむなくお断りすることが多かった」と振り返る。
今回、高まる需要に対応すべく、焙煎所には30kgの直火(ちょっか)式焙煎機を導入。あわせて新宿南口店(7月閉店)にあった5kgの直火式焙煎機を移設した。これにより1日当たりの製造量は2.5倍、労働生産性は3倍と大幅に向上することになる。
焙煎前のコーヒー生豆には水分が含まれ、焙煎後25%程度の目減りが生じるという。
焙煎所では25kgの生豆を大型焙煎機に入れて直火焙煎にとり水分をとばして1度に20kgの焙煎豆がつくれるようになる。
「5kg焙煎機だと4kgの生豆を入れて3g程度の焙煎豆ができ、60kgの焙煎豆をつくるのに20バッチ(20回の焙煎)必要としていたが、30kg焙煎機は3バッチで済み生産効率が格段に上がる」と語る。
製造能力増強により、今後は「ラグジュアリーホテルやこだわりを持つ飲食店様などの業務用にシフトしていきたい」と意欲をのぞかせる。
製品はオリジナルドリップバッグコーヒーに注力していく。
卸売事業は倉田社長自らが営業活動。その中で「特にホテル様においては、マシンのコーヒーでは満足できない宿泊客が物凄く増えてきており、客室にこだわりのコーヒーを置きたいというニーズの高まりは営業活動をしていても痛感する」という。
ブランド力向上を目的にコラボも推進している。
コラボパッケージは、同社のデザイナーが手掛ける「たじまる」の愛称のマスコット犬をカスタマイズでデザインしたものや、コラボ先のカラーにあわせたデザインなど幅広く対応できるようになっている。
直近ではインテリア雑貨販売の「Francfranc」とコラボし「Francfranc」オリジナルドリップバッグコーヒーの供給を手掛けている。
コーヒー以外では「ユニクロ新宿西口店」で「たじまる」ロゴ入りTシャツが発売されている。
小売店への卸売事業も高品質なブランドに貢献することを念頭に置き、百貨店や高品質商品を扱うスーパーなど販路を絞って展開し現在約600店舖に採用されている。
ブランドについては「新宿の喫茶店といえば但馬屋珈琲店、深煎りのコーヒーといえば但馬屋珈琲店というように、キーワードを絞り込むと名前が出てくるようにしたい」と語る。
深煎りコーヒーに寄与するのが直火式焙煎。但馬屋珈琲店では深煎りコーヒーを最高の抽出方法といわれているネルドリップ抽出で提供している。
直火式焙煎については「直火はコーヒー生豆についている薄い皮(シルバースキン)が焦げてスモーキーな香りになるが、熱風焙煎の3倍程度の手間暇がかかり焙煎士の力量によるところが大きい」と説明する。
焙煎所は、立飛リアルエステート(立飛ホールディングス)の敷地内にあり一般の入場は不可となっているが、立飛ホールディングスなどの協力を得ながら地域に貢献できるイベントや限定公開などを視野に入れる。
なお、但馬屋珈琲店全体の今期(12月期)売上高は前年比5、6%増の見通し。前期売上高はコロナ前の19年比で18%増となった。