伊藤園の茶農家と生産者をつなぐ「お茶サポーター」始動 目玉は未来見据えた植樹 摘採・加工・お茶料理も体験 その真意は?

 現在、茶農業は高齢化と後継者不足、相場の乱高下やコスト高による経営不安に直面しており、栽培面積や生産量、また茶を生産する農家の減少により持続可能な茶の生産体制が危ぶまれている。

 伊藤園が取り組む茶産地育成事業は、生産農家との結びつきを強め良質な茶葉を安定的に調達するとともに、茶農業の持続的な発展に「お~いお茶」など伊藤園の基幹ビジネスを通じて貢献していくことを目的に1976年に立ち上げられた。

 茶産地育成事業では、各地の茶農家から茶葉を全量買い取りする“契約栽培”のほか、荒廃農地などを茶園として維持・拡大に取り組む“新産地事業”があり、市町村や事業者を伊藤園がサポート。
 伊藤園が茶葉生産に関する技術・ノウハウを全面的に提供している。

 このような流れがある一方で、茶農業の持続可能性には、お茶の需要拡大が欠かせない。

伊藤園マーケティング本部広告宣伝部緑茶ブランド広告チームの上條裕介さん - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
伊藤園マーケティング本部広告宣伝部緑茶ブランド広告チームの上條裕介さん

 生活者に向けた、お茶文化の啓発、お茶の魅力発信、生産者の取り巻く環境などに関する情報共有が重要となる。

 今年、生活者への発信強化策として生活者と生産者をつなぐ「お茶サポーター」企画が始動した。

 同企画は、お茶に関連した様々なチャレンジを行う「お~いお茶 茶レンジプロジェクト」の一環で茶農業が抱える課題解決に向けた取り組みであり、有村架純さんや松本穂香さんが登場して本企画を伝えるCM『お茶サポーター』篇も放映した。

 その第一期の「お茶サポーター」を、公式サイトを通じて募集。当選した生活者を茶産地に招き生産者とつないだ。

 7月2日には、埼玉県入間市の茶産地に30組60人の当選者が二手に分かれて交互に訪れ、日本のお茶を未来につなげるイベントの象徴としてお茶の苗木を植樹した。

 お茶の苗木は5年かけて収穫可能な茶畑の形になることから、参加者には少なくとも5年間見守ってもらうことを意図している。

 「初年度ということで、純粋にお茶を楽しんでいただくことに力点を置いた」と語るのは「お茶サポーター」企画の旗振り役をつとめる伊藤園の上條裕介さん。

植樹体験の場となった「さやまあかり」が約4万本が植わる2haの畑 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
植樹体験の場となった「さやまあかり」が約4万本が植わる2haの畑

 植樹体験では1人ずつお茶の苗木を畑に植えて、植えた場所は番号で管理される。

 参加者にパスポート(冊子)を配布し、そこに番号を保管できるようにして見守りを促していく。

 関心を持ち続けてもらう工夫としては、パスポートの有効期限を5年間とし、5年間、植樹エリアで摘採・仕上げ加工された新茶(一番茶)を参加者にプレゼントする。

 「5年間オーナーになっていただく建て付けだが、苗木から収穫できるまで成長するのに5年かかるため、毎年、一番茶を贈らせていただくことで思い出していただきたい。お茶の木の成長記録も定期的に写真で報告させていただくことも考えている」という。

首都圏アグリファームの水本達也社長 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
首都圏アグリファームの水本達也社長

 イベントで植えられたのが「さやまあかり」という品種。これは埼玉県茶業研究所が、耐寒性を有した良質多収品種の育成を目的として1981年に交配した中から36年間かけて選抜し2021年に品種登録したものとなる。「さやまあかり」の名称は“狭山茶業の未来に明かりを灯す”という期待を込めて名付けられた。

 参加者が植樹した畑を管理・運営する首都圏アグリファーム(埼玉県入間市)の水本達也社長は「現在、茶農家様が抱えている課題は高齢化と後継者不足。管理が難しくなった畑を当社が引き継いでいる」と語る。

 首都圏アグリファームは、伊藤園の茶産地育成事業に参画し、伊藤園からアドバイスを受けながら現在70haの農地を管理・運営。70haのうち収穫可能な50haの成園(せいえん)で「お~いお茶」専用茶葉や一部で狭山茶を栽培している。

お茶の木は樹齢30年~40年ほどで収量が落ちはじめ、植え替えが必要とされる。

成園での二番茶の茶摘み体験 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
成園での二番茶の茶摘み体験

 イベント会場となった2haの畑は、古くなった成園を抜根して今年4月に苗を植えた畑となる。苗植えから成園になるまでの5年間は収穫が見込めず、このような先行投資も個人農家では困難とされる。収量が落ちながらも手が打てずジリ貧になるところが多いという。

 首都圏アグリファームは、伊藤園の茶産地育成事業を通じた契約による経営計画をもとに、伊藤園の多様なアドバイスのもと需給のバランスをとりながら入間市を介して個人の茶農家から借り受けた畑を効率よく管理・運営している。

 首都圏アグリファームによると、この取り組みが奏功して「ニホン継業バンク」が発表する「継ぎやすいまちランキング2022」では埼玉県入間市が前年の2位から1位に浮上したという。

手揉み体験 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
手揉み体験

 首都圏アグリファームは2015年3月に設立。設立には、14年3月に施行された「農地中間管理事業の推進に関する法律」が後押しした。

 農地中間管理事業とは、入間市など農地中間管理機構が農地の所有者から農地を借受け、貸付けにあたり地域で農地の借受けを希望する事業主を公募・選定し、担い手がまとまりのある形で農地を利用できるように配慮して貸付ける事業となる。

 「日本の農業を守るための法律と捉えている。これにより茶農家様と1対1で契約せずに、窓口は埼玉県(入間市)1つとなる。この制度があったからこそ、我々の事業は成り立っていると思う」と水本社長は説明する。

 首都圏アグリファームでは現在、「お~いお茶」専用と狭山茶用の2つの荒茶工場のほか、狭山茶用の仕上げ工場を持つ。

座学の様子 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
座学の様子

 このうち「お~いお茶」専用の荒茶工場は昨年稼働した最新設備となり、燃料はすべて都市ガス(入間ガス)を使用するほか、荒茶の生産ラインで発生する排熱を再利用できる環境に配慮した国内で最もCO2排出量が少ない工場となっている。

 将来的な生葉の収量増加を見据えて、2か所目の荒茶工場建設も視野に入れるほか、観光施設のアイデアも浮上。「農業地域にはトイレや駐車場をつくってはいけないのだが、これを見直す動きがあり、ジャストアイデアだが、茶畑が見渡せる場所に道の駅ならね「お茶の駅」などの施設があってもいい」と述べる。

 狭山茶は、入間市金子地区に広がる約400haの畑が主産地。「加治丘陵と狭山丘陵の挟まれたエリアであることから狭山と呼ばれていたが、(市制施行により)現在は茶畑の少ないエリアが狭山市となり、お茶処が入間市になっている」。

ほうじ茶づくり体験 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
ほうじ茶づくり体験

 イベントでは、狭山茶を含めたお茶の文化や魅力、「お~いお茶」が茶畑からできていることも伝えるため、植樹や二番茶の収穫といった農業体験に加えて、座学やお茶づくり体験も実施された。

 入間ガスショールームで開催された座学では、狭山茶が国内全生産量の2%程度の希少茶葉であることや、緑茶と抹茶の違い、生葉(収穫した茶葉)から荒茶加工を経て製品化されるまでの流れなどが伝えられた。

 荒茶と仕上げ茶との飲み比べほか、生葉を蒸した後に行う手揉みや、煎茶に火入れするほうじ茶づくりの体験の場も設けられた。

狭山茶料理 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
狭山茶料理

 食にもこだわり、昼食は茶処一煎で狭山茶料理が提供され、イベント全体で五感を通じてお茶の魅力が伝わるような工夫が施されていた。

 今回のイベントに先立ち、6月25日には鹿児島県志布志市で堀口園を中心にほぼ同内容のイベントが実施された。

 今年のお茶サポーターは第1期生となり、伊藤園は100万本の植樹を目標に掲げ、今後も生活者とともに茶農業を盛り上げていく。

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