進化するサイフォンコーヒー 世界大会に挑むUCC中井千香子さんがその魅力を語る

 サイフォンコーヒーが進化している。

 サイフォン式抽出とは、アルコールランプやハロゲンランプでフラスコ内の水を沸騰させ、その蒸気圧を利用してお湯をフラスコの上にあるロート内に押し上げ、高い温度のお湯とコーヒー粉を浸漬して抽出する手法。

 UCCグループのコーヒー教育機関であるコーヒーアカデミー専任講師の中井千香子さんは、この抽出手法をトラディショナルと位置づけ、これに新技術を取り入れて、9月、サイフォンコーヒーに特化した世界大会「ワールド サイフォニスト チャンピオンシップ(WSC)」に挑む。

 中井さんによると、海外では次々とサイフォンの新技術が生まれ、海外の抽出競技会(ブリューワーズカップ)ではサイフォンの担い手が増えているとし、その背景にコーヒーでニーズの多様化が進んでいることを挙げる。

 「サードウェイブの波が来て多様なコーヒーが選べるようになったと同時に、お店で多様な抽出器具も選べるようになり、アジアを中心にサイフォンが広がっていると聞く」と語る。

サイフォンコーヒーの大きな特徴は演出効果が高い点にある。
ガラス製の器具ごしにコーヒーができあがるまでの過程が目でも楽しめる。

 このような特徴から業務用では集客ツールになりうる。

 「見た目が大事であるのと、あとは一杯ずつお客様の目の前で淹れることができお客様に“自分のコーヒーがつくられている”と思っていただける。ドリップなどと比べて抽出後の温度が高いのも特徴で、温かさが長続きするため長居されるお客様には好適」と説明する。

ロートからフラスコに落とされたコーヒー - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
ロートからフラスコに落とされたコーヒー

 トラディショナルなサイフォン式抽出はこうだ。

 ロートにコーヒー粉を入れ、フラスコの水を沸騰させて完全に沸騰していることを確認してからロートをしっかりとフラスコに差し込む。

 次にお湯がロートの方に上昇してきたら、竹べらでコーヒーの粉とお湯をなじませるように素早く円を描くように数回攪拌(かくはん)する。

 抽出時間は、コーヒーの焙煎度や挽き方によっても変わるが、長すぎると雑味が出てしまうため1分を超えないようにすることがコツだという。

 抽出時間が過ぎたら火を消し、濾過をスムーズに行うために2回目の攪拌を行う。2回目の攪拌は「火を消すとコーヒーが次第にフラスコへと落ちていき、その落ちていくのを手助けするような撥拌になる」。

 これに対し、中井さんが過去の競技会で披露した抽出法は、沸騰させたお湯にコーヒー粉を入れて、仕上げに水を入れてコーヒー液の温度を下げるやり方。

 これにより抽出ムラと苦味の抽出が抑えられるという。

 「トラディショナルなやり方でも十分においしいコーヒーを淹れることができるが、競技会の中で抽出方法が進化・多様化していることに対応していく必要がある。トラディショナルなやり方の場合、ロートの湧き上がるところが起点となってコーヒー粉がお湯に浸され、沸き具合によってスピードが異なり、しかもコーヒー粉に抽出のムラができてしまうため、これらの点の解消を試みた」と振り返る。

 仕上げに水を入れる理由については「抽出の前半に酸味や甘さといった、おいしい成分が抽出されるが、後半になればなるほど苦味や口当たりのざらつきが出やすいため、後半に水を入れて温度を下げることで抽出効率を低くすることが目的」と述べる。

 現在、中井さんは9月の世界大会に向けて、さらなる新しいやり方を試行錯誤している。なお世界大会にはコーヒーの調達・焙煎など他部署の社員とのチーム一丸で臨む。