〈食の産学官連携①〉「『知』の集積と活用の場」 産学官連携・食農イノベーションを創出 農林水産省

近年、コロナ感染拡大によるサプライチェーンの混乱、食品原材料・エネルギー価格の高騰など「食」に関わる環境は激変している。一方、国内の農林水産業は後継者不足や低生産性など構造的な問題を抱え、「6次産業化」による活力回復が課題となっている。こうした中、農林水産・食品産業に関わる「産」「学」「官」が緊密に連携し、それぞれのリソースや知見、最新技術を活用した付加価値製品の創造、事業化を図る重要性が高まっている。「食の産学官連携」では、こうした食品産業活性化に向けた産学官の取り組みを連載する。

昨年10月26~28日に東京ビッグサイトで開催された「アグリビジネス創出フェア2022」。農林水産省が主催する同フェアは、全国の大学や研究機関などが保有する農林水産・食品分野の最新研究成果(シーズ)発表の場。食品関連事業者など例年2~3万人が来場する一大イベントだ。

「動物の味覚バイオセンサー研究の応用として、動物の味覚を可視化し動物種(豚・牛・鶏など)に応じた最適な『美味しい飼料』の可能性を追求する」(茨城大学農学部食生命科学科)、「市場価値が認められず海上投棄される深海魚を、水産仲卸や自治体と連携し『うんまか深海魚』としてブランド化。ポストコロナの観光資源化を視野に、加工品の製造・販売を目指したい」(鹿児島大学水産学部水産資源科学分野)など、担当教授らの説明にも熱がこもる。

出展は「みどりの食料システム戦略」「農業」「林業」「水産」「畜産」「食品」「総合」の全7ゾーン・130ブースに及ぶ。研究シーズの社会実装を図りたい大学・研究機関と、商品化・事業化につなげたい食品関連事業者との交流を促し、イノベーション創出のきっかけにする狙いがある。

農林水産省が進める産学官連携の取り組みのベースとなるのが、同省が2016年に創設した「『知』の集積と活用の場」だ。その活動は、①生産者・企業・大学・自治体など4千400を超える会員が登録する「産学官連携協議会」を基盤として、②スマート農業、健康食品など同じ目的を持つグループ「研究開発プラットフォーム」、③プラットフォームから生まれる研究開発・製品化チーム「研究コンソーシアム」―の3層構造で展開される。

同省の大熊武産学連携室長は「農学の世界だけで品種改良や技術開発を進めても生産性向上には限界がある。例えば、スマート農業の研究開発は機械工学や情報工学、ロボット工学なくして成立しない。健康・機能性食品の開発にも医学や栄養学を含めた連携が不可欠だ。産学官が連携したオープンイノベーションにより農林水産・食品分野に異分野のアイデア・技術を導入し、新たな商品化・事業化につなげたい」と力を込める。

「『知』の集積と活用の場」の活動も第2期(2021~2025年)に入り、課題も見え始めている。「これまで176の研究開発プラットフォーム、延べ約470の研究コンソーシアムから製品化・事業化の成果が出始めているが、まだまだ十分とはいえない」(大熊室長)として、スマート農業普及やスタートアップによる新事業創出を重点課題として支援を強化する方針だ。海外市場への展開を後押しするため、在京大使館との共催による交流イベントなど“仕掛けづくり”にも取り組む。