“急須で淹れて飲むお茶”を広めるべく開始した伊藤園の「茶器が選べるおいしいお茶時間」キャンペーンが年々拡大し、日本の伝統工芸の魅力発掘にも一役買っている。
伊藤園には、茶葉の消費促進のために開発した、PCT樹脂(トライタン)「理想の急須(非売品)」がある。この急須は、主力リーフ製品の応募マークを集めると“絶対もらえる”キャンペーンの景品として人気を集めている。
その一方で「やはり伝統工芸品の茶器でもお茶を飲んでほしい」(伊藤園・渕上宜子マーケティング本部リーフブランドグループ販促チーフ)との想いから、2020年より各産地の茶器が抽選でもらえるキャンペーンも同時展開している。
キャンペーンは、生活者の声を反映させて、回を重ねるごとに茶器のラインアップを拡充。2月28日まで実施している3回目の今回は、これまでの「焼きもの」の品揃えに「塗りもの」が追加されている。
これにより「漆器を知っていただくきっかけになれば」と期待を寄せるのは、日本漆器協同組合連合会(日漆連)の春原(すのはら)政則事務局長。
「漆器に限らず、コンビニ弁当やペットボトルの浸透によって、家庭にある器を使わない文化になりつつある。美しい器には、食べ物や飲み物に彩りを添え、おいしいものをよりおいしく、ゆったりとした時間が過ごせるといった役割があると思うので、当連合会ではまず漆器を知っていただく機会をつくっていく」と続ける。
さらに「漆と木の軽さと柔らかさは私たちの祖先が連綿と感じ続けてきた心地良さ。お茶を飲むのも、漆塗りの木製の器が絶対にいい。ほんわかと温もりが直に感じられるのは漆器ならではの特長」と力説する。
また天然素材の漆にはウイルスや菌の抑制効果が科学的に証明された。
温もりを感じられる点と抗菌性を漆の基本価値とし、装飾や加工といった産地ごとの特長で差別化を図っていく。
今回のキャンペーンには、日漆連加盟の3産地が出品した。
そのうちの1つの高岡漆器(富山県)伝統工芸士の武蔵川義則氏(伝統工芸高岡漆器協同組合相談役・武蔵川工房代表取締役)は「0.1ミリの薄さにしたアワビの貝殻をいろいろな形に切って漆面に貼り付けて塗り込んでいく高岡の螺鈿(らでん)技術を知っていただきたくて、今回チャレンジした」と語る。
また「最近は需要がパーソナルな感じになってきた。量をこなすというよりも、小さなものをオーダーメイドで手掛けることが多くなった。注文方法も変わりつつあり、インスタグラムなどからもオーダーをいただくようになった」という。
450年もの歴史を持つ山中漆器(石川県)からは、中棗(ちゅうなつめ)と茶筒が出品。山中漆器について、崎田明宏氏(山中漆器連合協同組合事務局長)は「木地(きじ)の山中と言われ木地をひく技術が特長」と説明する。
「棗(なつめ)は装飾が素晴らしくアクセサリー入れとして外国の方にも買われたりもするが、本来は抹茶を入れるものであるため、抹茶文化が広まってほしい」と期待する。
桐材の茶箱や湯のみ茶托、マグカップなどを出品した会津漆器協同組合(福島県)は、伊藤園に対して「ライフスタイルの洋風化により漆器業界の規模が激減し、漆器のお茶関連アイテムは見る影もないのが現状。茶葉からいれる本格的な日本茶もぜひPRしてほしい」と訴える。
その一方で、高岡漆器の武蔵川氏は「お~いお茶」の茶産地を舞台にしたCMを高評価。
「CMで茶畑から描いているのを見ていい会社だと思った。漆器は、木地師、下地師、塗師、蒔絵師の職人たちの分業でつくられ、いいモノを完成させるには1つだけではできない。漆器を広めるにあたっては、産地や市場の問屋以外の新しい流通があってもいいと思う」と述べる。
さまざまな産地を加えた新たな展開は、選ぶ楽しさや世界に一つしかない作り手に想いを馳せて飲むお茶は格別で、まさに楽しくて「おいしいお茶時間」が広がっている。
伊藤園の渕上氏は「産地の自治体様もPRに一役買っていただき、参加作品が掲載されたポスターを市内に掲示いただき官民一体で地場産業の振興を応援している。お客様のご要望にお応えできるよう、社内外の連携を図り継続していく」と意欲をのぞかせる。