北海道産じゃがいも栽培に地球温暖化対策待ったなし 収穫を祝うセレモニーでカルビーポテト田崎一也社長が持続可能な農業へ意欲

 北海道産じゃがいもの栽培に地球温暖化対策が待ったなしの状態となっている。

 8月29日、北海道・十勝の畑(河西郡芽室町)で開催された2025年北海道産じゃがいもの収穫を祝うセレモニーでカルビーポテト社の田崎一也社長が明らかにした。

 「24年が大豊作、23年が豊作と過去20年の中で1番目・2番目と収穫が多い年が続いたが、今年は少し厳しい年になりそうだ。高温と干ばつに見舞われ、特に6月・7月と一番雨が降ってほしいときに降らなかった」と振り返る。

 芽室町で先代からカルピーポテト社のフィールドマンと二人三脚でじゃがいもを生産する芽室町加工馬鈴しょ生産組合の大谷寿仁組合長も「30年くらい前は30℃を超える日は片手で余裕に数えられたと記憶しているが、今年は7月に入りほぼ毎日30℃以上が続いた。特に十勝は夜の気温が他の北海道の産地と比べて下がりづらい」と指摘する。

収穫体験の様子
収穫体験の様子

 大谷組合長によると、収穫したじゃがいも畑で受け入れるアルミ製のコンテナも高温で熱くなり、じゃがいもの品質に悪影響を与える恐れがあったことから、高温な時間帯での収穫を避け、速やかな運搬を依頼するなどして対応したという。

 カルビーポテト社は、気候変動が今後も続くとの見立てのもと、適正施肥や潅水(かんすい)の研究、品種改良の取り組みを進めていく。
「今まではどちらかというと雨が降った時に畑から水を抜くことが多かったが、今後は水をどう与えていくかが重要となる。このような課題を含めて持続可能な農業に貢献していきたい」と  
 田崎社長は意欲をのぞかせる。

 潅水設備が整っている畑には生産者に水やりを推奨し、潅水が整備されていない畑については国や自治体に整備を働きかけていく。

 カルビーポテト社芽室支所の田岡宏崇支所長は「水を撒くにしても生産者の労働コストがかかるため、5~8月の間で何回撒けば潅水の効果が出るのかを数か年試験して理論的に解明できないか取り組んでいるところ」と説明する。

 適正施肥については肥料の種類などを見極める。

 「畑ごとにどの肥料が不足しているかをしっかり分析して、厳しい環境の中でも効率よく馬鈴薯が肥大するように科学的に解明していく。現在、芽室で組合さまや農協さまに協力しながら試験をしている」という。

 農家戸数が減り生産者1戸当たりの作付面積が増える規模拡大化の動きに対しては、効率化を進める。
 「品質の悪い馬鈴薯を生産者のところで選別していただいているのが常だが、そこを緩和して(カルビーポテト社の)支所で受け入れていくことを進めている。腐敗したもの以外をそのまま持ってきていただき支所で除外することで生産者の選別人員を削減していく」と語る。

「じゃがいも収穫ファンミーティングin北海道」で参加者に挨拶するカルビーの野堀和哉コーポレートコミュニケーション本部グループ広報部部長(右)
「じゃがいも収穫ファンミーティングin北海道」で参加者に挨拶するカルビーの野堀和哉コーポレートコミュニケーション本部グループ広報部部長(右)

 セレモニーは、大谷組合長が管理する4haの圃場で実施された。「トヨシロ」とカルビーポテト社が独自開発した「ぽろしり」が半分ずつ作付けされている。

 大谷組合長は「施肥の試験や潅水の試験などに取り組み、今年は昨年と同じく高温・干ばつによる影響が大きい年だったが、これに対してどのようにアプローチしていけるかを模索している。北海道十勝だけに限った話ではないと思うため、他の産地にも共有できるような有意義な情報や技術を積み上げていいいけたらいい」と力を込める。

 品種改良について、田崎社長は「センチュウという病害虫に対して抵抗性にある品種に改良している。『トヨシロ』は非常に優秀な品種だが、抵抗性がないため、いずれ改良していかなければいけない」との考えを明らかにする。

 セレモニーには、こうした生産を取り巻く厳しい環境や持続的な生産への取り組みを生活者にも理解してもらいたいとの期待感がにじむ。

収穫したじゃがいもを使ったポテトチップスの試食会
収穫したじゃがいもを使ったポテトチップスの試食会

 セレモニーは「じゃがいも収穫ファンミーティングin北海道」と題し、カルビーと初めて共催し初の試みとしてカルビーグループファン約30人を畑に招き、「トヨシロ」の収穫体験や貯蔵庫の見学、収穫したじゃがいもを使ったポテトチップスの試食会を催した。

 「馬鈴薯に限らないが、生産コストをしっかり乗せた価格にしていくことが必要となってくる。それにより国産の野菜・作物について生産者が“作りたい”と意欲を持てることを、ファンの方々にも知っていただきたい」と田崎社長は述べる。

 田岡支所長も「カルビーポテト社という会社は、カルビーに原料を供給している会社であることを少しでも知っていただきたい」と期待する。

 生産者の働きがいにも寄与しうる。

 大谷組合長は「規模の大きなものを生産していると直接消費者と対面できる機会がなかなかないことから、ユーザーの方と直接対面できる貴重な機会を設けていただいたことは、少し緊張するが、とても嬉しい」と語る。

 参加のファンに挨拶したカルビーの野堀和哉コーポレートコミュニケーション本部グループ広報部部長は「カルビーポテトと生産者さんは一緒にじゃがいもを大切に育ててカルビーに供給している。このことを少しでも皆さんに知っていただきたい」と呼びかける。

貯蔵庫見学の様子
貯蔵庫見学の様子

 収穫体験後に訪れた貯蔵庫は、地球温暖化対策として冷蔵設備が導入され、家庭の冷暗所とほぼ同じ温度帯の18℃~20℃程度に保たれている。

 「夜の温度が下がりにくくなっており、コスト増にはなるが冷蔵設備の導入を進めている。全道百数カ所に入れていかなくてはいけない」と田崎社長は述べる。

 貯蔵庫の見学では、じゃがいも1コンテナ分(約1400キロ)がポテトチップス約7000袋分に相当することや、貯蔵しているじゃがいもの緑化を防ぐため庫内を暗くしていることなどをクイズ形式で紹介した。

 なお、カルビーポテト社の北海道産じゃがいもの調達量は23年が25万トン、24年が24.5万トン。このうち約4割を十勝産が占める。芽室町加工馬鈴しょ生産組合では1034haのじゃがいも畑が広がり、この中で187戸が作付けを行っている。