空前の抹茶ブームで、原料卸として伊藤園の存在感が高まっている。
原料を卸しているのは、伊藤園の広域法人営業本部特販部。同部署は、食品メーカーや外食店に向けに抹茶を中心とした茶葉や果汁、野菜などの加工原料を幅広く販売しているBtoBの営業部署。
消費者の目に映るのは、取引先の商品やブランド、メニューであり、基本的に伊藤園の社名が露出することはない。
取材に応じた特販部特販三課の松崎隆代さんは所属する特販部について「事業内容についてあまり知られていない部署。私自身、新規顧客のアポをとろうとすると『お~いお茶』や自販機の営業といまだに勘違いされることが多い」と語る。
一方で、原料卸ビジネスにおいても伊藤園の社名が露出される事例がいくつかある。
4月25日から5月18日にかけて開催予定の抹茶の一大イベント「MATCH‐UP MATCHA 抹茶に出会うひととき」もそのひとつ。
同イベントは、JR東日本沿線の各駅にある「エキュートエディション」など9施設に入居する計22店舗の外食店が一斉に伊藤園の宇治抹茶を使った限定メニューを展開するもの。
キャンペーン内容を告知する冊子やポスターには、伊藤園の社名が堂々とあしらわれている。

その理由について、イベントを主催するJR東日本クロスステーション デベロップメントカンパニーエリア営業ユニットの甲斐大介さんは「お客様の中で“お茶といったら伊藤園”という結びつきが物凄く強く、あえて社名を出すことで、より魅力的に映り、より多くのお客様に来ていただけると考えたため」と説明する。
JR東日本沿線には、「グランスタ」や「エキュート」といった大型商業施設が点在する。
その一方で、甲斐さんが所属するエリア営業ユニットでは「エキュートエディション」「マーチエキュート神田万世橋」「リエール藤沢」の比較的小型の商業施設を管理・運営し、周辺エリアとの結びつきを大命題に掲げている。
「周辺エリアが活性化して人流が増加すれば、自ずと駅利用者が増えて、我々の施設を使っていただける。さらに、施設の魅力が増せば、施設を目的とした駅利用者も増えて周辺エリアにもいい影響を与える」とみている。
抹茶フェアの開催を企画するにあたり、きっかけとなったのが、昨年5月、(公財)東日本鉄道文化財団が管理運営する「旧新橋停車場(東京都港区)」に「お茶の文化創造博物館」とともにオープンした「お~いお茶ミュージアム」だった。
「『お~いお茶ミュージアム』の内容がとても興味深く、相互送客につなげたいと考えた。当初は新橋エリアの活性化を考えていたが、伊藤園のブランド力があれば、広範なスケールで展開して多くのお客様に喜んでいただくべきだと思い直した」という。
企画の実施は「お~いお茶ミュージアム」が開業一周年を迎える5月を予定していた。
企画趣旨を伊藤園に伝えたところ、提案されたのが抹茶だった。
新茶の摘採シーズンは、抹茶の需要が高まるタイミングでもあるという。
「伊藤園は原料となる茶葉へのこだわりが強く、畑づくりから契約農家と取り組み選び抜いた茶葉を仕入れたり、厳しい品質管理も行ったりしている。伊藤園が提案する抹茶を採用すれば施設も喜んでくれる」と振り返る。

抹茶の採用は、伊藤園の特販部にとっても絶好の機会だった。
特販部では、数ある原料の中で抹茶を最注力原料に掲げており、様々な特徴を持った抹茶を取り揃えている。
抹茶フェアに向けては、参加22店舗の28種類に上る多彩なメニューに合わせられるように複数の宇治抹茶を用意した。
最終的に2種類の宇治抹茶に絞ったことについて、伊藤園の松崎さんは「茶期が早く旨み成分が非常に多いのが特徴の抹茶と、苦み・渋みが若干強めの抹茶の2種類を用意した。採用状況をみると、スイーツなど甘いものには後者、鮎の塩焼きなど塩味の強い製品には前者が選ばれる傾向にあった」と述べる。
伊藤園特販部としては、今回の取り組みにより、料理提案という販路強化へ繋がるきっかけになったと捉えている。
「料理への提案は、特販部では、なかなか入れなかった領域。今回、もともと塩で味付けされる鮎の塩焼きに抹茶を加えることで旨みが増すなど、料理にも提案できることを勉強させていただいた。今後、このような新しい発見を提案して販路を広げ抹茶を中心に売上を伸ばしていきたい」と意欲をのぞかせる。

今回、抹茶フェアを実施する9施設は、「エキュートエディション」6施設(新橋・御茶ノ水・有楽町・横浜・渋谷・飯田橋)、「マーチエキュート神田万世橋」、「リエール藤沢」、五反田の商業施設となる。
「エリア営業ユニットの横断企画としては過去最大規模となる。同時期に一斉に行うことで、例えば新橋を訪れたお客様が店内で冊子などを目にすることで隣の有楽町にも足を運んでいただける可能性がある」と甲斐さんは期待を寄せる。
抹茶についても「いろいろな食品に使える汎用性の高い食材であり、ショップの魅力をさらに引き出せると考えている。抹茶には継続摂取により社会的認知機能の改善が確認されたといった研究報告もあり、健康志向の方にも支持され、海外の方からはスーパーフードとして注目されている。伊藤園の扱う抹茶の魅力も同時に知っていただける意義のある企画になる」と期待する。

実施店舗のひとつ「エキュートエディション御茶ノ水」に入居する「PLUSOUPLE」を手掛けたミュープランニングの運営企画部・小埜健太氏も「非常に香りが上品で風味の良い抹茶で、原料の良さを活かした商品開発ができた。今回のフェアを通して、多くのお客様に当店のことを知っていただきたい」と期待をにじませる。
コミュニケーション活動は、冊子を印刷して施設内に設置するほか、ポスターの掲出や山手線のトレインチャネルでの動画放映を予定している。冊子で紹介されるメニューのいくつかには伊藤園ティーテイスターのおすすめポイントが記されている。
「露出の規模も過去最大級となる。ゴールデンウィーク時期にも重なり、より多くのお客様に来ていただけるきっかけになる」と甲斐さんは語る。
伊藤園としては抹茶、関連する健康への知見・原料調達・独自技術やノウハウを掛け合わせた新たな価値の提供を行い、抹茶を中心とした原料卸事業の拡大を目指す。
松崎さんは「歴史の長い抹茶の老舗ブランドが多くある中で、当社は世界のティーカンパニーを長期ビジョンとして掲げている。原料卸についても、現在、取り扱いが大幅に拡大している抹茶に注力していきたい」と力を込める。
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