異動への不安や育児との両立など仕事上のモヤモヤを顕在化して面談者の自律を促す画期的な窓口が、大手嗜好飲料メーカーの味の素AGFにある。
窓口の名称は「キャリア相談室」。
2023年11月に新設された。“キャリア”や“相談”の言葉の響きから、悩める社員が利用するものと思われがちだが「テニスのように自分が思っていることの“壁打ち”相手として気軽に使っていただきたい」と呼びかけるのは小椋比呂美さん。
この思いから、キャリア相談室は、来年以降名称変更を検討している。
小椋さんは人事部に所属し今年9月から社内コンサルタントを兼任。現在、キャリア相談室は、先任の杉山統さん、外部コンサルタントとの3人体制で運用されている。
取材に応じた12月5日時点では、面談に訪れた社員全員(累計面談件数40件)から「満足」との事後アンケートの回答が得られ、AGF社内で杉山さんと小椋さんを“最強のふたり”と見る向きもある。
二人は国家資格キャリアコンサルタントを有する。
国家資格キャリアコンサルタントの考え方に準じて、杉山さんは面談に応じる際に3つのポイントを重視する。
その1つに、“自分がやりたいこと(WILL)”“自分のできること(CAN)”“会社から求められること(MUST)”を明確にしてバランスをとることを挙げる。
「自分がやりたいと思っても能力がないと釣り合わない。また、能力があってやりたいことばかりやっても、それが会社の求めることでなかったら、これも釣り合わない。逆にやりたくないことや、できもしないことを会社から押し付けられても、恐らくいいパフォーマンスができない」と杉山さんは説明する。
2つ目のポイントは、内的キャリアを明確に認識すること。
「キャリアというと、職業や役職のイメージが強いが、そのような外的なキャリアだけを追いかけずに、その職業や役職に就いて“何をしたいのか”といった働くことの意味をもっと突き詰めて考えることで解消できる悩みもある」と力を込める。
3つ目が傾聴で、これが「とても難しいこと」と述べる。
「とにかく人の話をよく聞く。話の途中で遮ってはダメで“結論から先に言ってほしい”と求めるのもNG。」と続ける。
面談にあたり、自前主義を基本に国家資格のエッセンスを取り入れながら、外部コンサルタントの力を借りている点も特徴。
面談は、適性適職診断ツール(PAT診断、株式会社パソナが提供)をベースに行われる。
面談の予約・PAT診断の受診・キャリアシートの記入・面談・アンケートの回答の5段階で進行する。基本、オンラインで実施し対面でも行っている。
面談の情報は秘匿される。
「PAT診断では、面談者が多岐にわたる質問を短時間で回答する。これにより、外向きか内向きかといった性格診断や、反復作業や創造的な業務に向いているなどの適職分析などが出され、面談者の満足度にかなり寄与している」という。
面談時間は60分。「最初の40分は、当日のゴールイメージを共有した上で、まずはこれまで取り組んできたことやその時々の満足度などについて理由とセットで一緒に棚卸しを行い、面談者のモヤモヤがある程度解消されてきた段階でPAT診断の結果を伝えると、この客観的なビッグデータが後押しとなり、自己理解が進みみな腹落ちして満足される」との手応えを得る。
面談でコンサルタントがやってはいけないことの一つは「こうした方がいい」といった自分の意見を押し付けるようなアドバイスだという。
「例えば退職を考える人に“もっと続けたら”といった類の助言は厳禁。面談は自律を促すためにあり、我々はそのための材料を提示することに留めている。社内制度についての理解が足りなければ、“こういう制度がある”といった具合に勧めて周辺の情報をできる限り提供している」と述べる。
面談には外部コンサルタントも入れることで、社内に強いコンサルタントと社外に強いコンサルタントの2方向で面談者をサポートする。
面談の目的は社員の自律を促しパフォーマンスを高めることにある。
AGFの人財育成は、自ら成長する意欲を持って挑戦する各社員の個性を、会社が最大限尊重し、チャレンジする“個”を支援する共成長の考え方をとる。
全社員対象としたキャリアプラン研修を実施し、その上で自身のキャリアについてさらに興味を持った社員に対してキャリア相談室を設けている。