アサヒ飲料は、4350億円規模とされる巨大市場ながらも競合ひしめく緑茶飲料市場に「香り」で挑む。
今年、2011年に発売開始した「匠屋」以来12年ぶりの緑茶飲料ブランド「颯(そう)」を立ち上げ新商品「颯」(250ml紙・275mlPET・500mlPET・620mlPET・2LPET)を4月4日に発売開始する。
今年からスタートする中期マーケティング戦略の1つとなる「無糖の拡大」の一環。
無糖飲料の中で緑茶飲料の新ブランドを立ち上げた理由について、7日発表した米女太一社長は「飲料市場の15%を占めるとされる緑茶飲料市場で選択肢としてのブランドを持っていないというのは、今後の消費者の構造を考えるとやはり課題であると前々から思っていた」と語る。
新ブランドの立ち上げにあたり着目したのが「香り」で、これは約1万2000人を対象に実施した2年にわたる調査結果から得られた気づきであったという。
「いろいろインタビューした結果、これからの緑茶飲料にある示唆を与えていただいた。それがスッキリした味わいと良い香りの緑茶飲料で、これで差別化できると判断した」と振り返る。
この調査結果を踏まえて開発された新商品「颯」は、摘採後に時間をかけてわずかに発酵させた茶葉を一部使用して“一般的な緑茶飲料とは異なる華やかな香り立ちを実現した新たな緑茶”を謳ったものとなる。
お茶は、緑茶も紅茶も烏龍茶も同じ茶の木の新芽を摘み加工したもので、茶葉の加工過程で様々なお茶になる。
緑茶は発酵させずにつくられ、途中で発酵を止めて半発酵でつくられるのが烏龍茶で、完全に発酵させてつくられるのが紅茶となる。
今回「颯」で一部使用する、茶葉をしおれさせてわずかに発酵させた微発酵の緑茶は、萎凋(いちょう)緑茶と呼ばれ、茶葉から香気成分の発生を促す。
萎凋緑茶は手間のかかる製造方法であるため、アサヒ飲料の調べによると、21年萎凋緑茶生産量は15トンと日本の荒茶生産量の0.02%に相当する。
過去、萎凋の香りがついた茶葉は加工過程のネガティブな現象とされ、緑茶の品評会ではマイナス評価されていたが、近年、「花香(はなか)」とも呼ばれるフローラルな香りが見直されるなど注目を集めているという。
アサヒ飲料は、複数の茶舗をめぐり最適な原材料や製法を探る中で、日本最高位茶師十段である酢田恭行氏と出会い萎凋緑茶に着目した。
「『颯』の開発は苦難の連続だった。緑茶をしおれさせる技術は非常に難しく大量生産が困難。そうした中、ある工場の技術に出会い萎凋緑茶の製造をお願いすることができた。大変貴重な茶葉を使っていることが1つのポイント」と坪野達也執行役員マーケティング本部長は胸を張る。
「颯」には香料も使用。これについては「『三ツ矢サイダー』で培ってきた香料技術を100%使用し、自然由来のものからつくられた香料を使用している」と説明する。
発売と同時に年間1万GRPの出稿量の計画でTVCMを放映開始するほか、デジタル施策やインフルエンサーとのタイアップ企画を通じて話題喚起を図り年間500万ケースの販売数量を目指していく。
「無糖の拡大」の取り組みとして、ブレンド茶の定番ブランド「十六茶」と、昨年立ち上げた香りを特徴とする無糖茶ブランドの「和紅茶」も強化していく。
「十六茶」は、今年発売30周年を迎えることから、30周年記念商品や完全ラベルレスボトル商品を展開予定。
一方、「和紅茶」はパッケージと中味を刷新し、中味については香りをさらに追求。期間限定商品の投入も予定している。
無糖茶3ブランドは、常に生活者に寄り添いデザイン思考をもって共感を得る「共感“At your side”」のマーケティング方針に基づき展開していく。
それぞれのポジションについて、米女社長は「『十六茶』はおいしさと健康、『和紅茶』はおいしさとリラックス、今回の『颯』はおいしさと爽快感」と位置付ける。