緑茶飲料すっきりした味わいの潮流追い求め同質化 脱却図るサントリー「伊右衛門」が賭けに出る大刷新 旨く・濃いに“逆張り”

 サントリー食品インターナショナルは今年、「伊右衛門」ブランドの旗艦アイテム「伊右衛門」本体(緑茶)の起死回生を図るべく“緑茶飲料市場のトレンドに逆行する”という賭けに出る。

 「伊右衛門」ブランドの2023年販売実績は前年比7%減の5740万ケース。伸長基調にあった2000年以降で最低の販売数量となった。

 同社はこの不振要因を、22年10月の価格改定で鮮明になった緑茶飲料の同質化にあるとみている。同価格改定では、主要容器の小型ペットボトル(PET)が対象となった。

 価格改定後、「伊右衛門」などのNB緑茶飲料は、値ごろ感のあるPB緑茶飲料への顧客流出に加えて、麦茶飲料やミネラルウォーターへの顧客流出が加速しているという。

 流出の動きは、緑茶飲料の同質化によるものとの見方を示すのは、2月29日発表した多田誠司SBFジャパンブランド開発事業部部長。

多田誠司氏(右)と伊藤康友氏 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
多田誠司氏(右)と伊藤康友氏

 「気温上昇に伴い水分補給ニーズが強まり、よりすっきりとゴクゴク飲める中味が求められるようになった。各社がこのニーズにあわせようとした結果、スタンダードの緑茶飲料はすっきり系の味わいへと同質化してしまった」と指摘する。

 同社は、消費者調査などで生活者の声に耳を傾け真面目にモノづくりをすればするほど同質化が進むとの気づきを得て、方向転換。

 「価格改定後の年明け2月頃、これ(数量減)は一過性のものではなく続く可能性があると想定し、春商戦でなかなか浮上しなかった段階で変えなければいけないと考えた」と振り返る。

 水色(すいしょく)をきれいな緑色に仕立てて、すっきりしたおいしさを追求してきた現行品を改め、3月12日に発売されるリニューアル品は、止渇飲料から嗜好飲料の転換を図るべく「伊右衛門」本体史上最高レベルの濃さに進化させた。

 「スタンダードの緑茶飲料とは一線を画す領域の旨みと濃さを体験できる味わいに仕立てた。社内からは“大きな潮流であるゴクゴクすっきり飲める味わいではなく、ある種逆張りとも言える濃さに振り切ってしまって大丈夫か”という声も上がったが、分かりやすい質の良さを求める消費傾向もみられる」と語る。

 リニューアル品は、止渇飲料にはない緑茶飲料ならではの独自価値を打ち出すべく、600mlの現行品と比べて、茶葉量を1.5倍、旨み抹茶を3倍使用している。

 「日頃から飲んでいただいている価格帯でしっかり贅沢感を味わっていただきたい。コスト面でかなり無理をしているが、今が勝負所。ここで本当においしいものを提供しないと先はない」との危機感を持つ。

 危機感を持つ背景には、緑茶飲料が飲料市場最大の“大票田”であることにある。

 全国清涼飲料連合会によると、総生産量に占める日本茶飲料(緑茶飲料)の割合は22.8%と最大規模となっていることから「このカテゴリーで負けるわけにはいかない」と不退転の覚悟で臨む。

 開発にあたっては、福寿園と約100種類におよぶお茶の試飲を行い、中味の試作品は約200種類に及んだ。

 開発を担当したSBFジャパン商品開発部の伊藤康友氏は「茶葉量1.5倍で茶葉由来の苦味は強化しているが、そこにコクを引き出す抹茶を掛け算することで、飲んだ瞬間はしっかりお茶らしい苦味、後半は抹茶のコクが味わえるようにバランスを整え、満足感が得られるトータル設計になっている」と語る。

 抹茶は“香り抹茶”と“旨み抹茶”の二種の石臼挽き抹茶を使用している。

左から堺雅人さんと古川琴音さん - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
左から堺雅人さんと古川琴音さん

 コミュニケーションは、“一度は飲んでいただきたい”をキャッチフレーズにトライアル促進に注力していく。

 堺雅人さんと古川琴音さんを起用した新TVCMで大刷新した新「伊右衛門」を伝えていくほか、SNSを活用した約50万本の発売前サンプリングや店頭活動を展開していく。

 店頭活動では、売場づくりに加えて、“バックヤード試飲会”と称し約4500店のスーパー・量販店で働く従業員に試飲サンプリングを行う。

 ブランド全体が昨年落ち込む中で、好調を続けている機能性表示食品「伊右衛門 濃い味」との相乗効果も狙う。

 「伊右衛門 濃い味」の販売数量は昨年、2桁増を記録。今回、「伊右衛門」本体と統一感を持たせたボトル・ラベルに変更し、中味については石臼挽き抹茶に加えて、新たに玉露ほうじを使用することで、より濃く満足感のある中味に進化し2月20日から発売している。

 「『濃い味』は非常に好調で、しっかりとした濃い味わいでもお茶らしさを感じていただければ必ず需要はあると確信した。健康ニーズだけではなく、本来のお茶の味わいをしっかり楽しみたいというニーズにも対応している。店頭では本体と同時に展開してくことを考えている」(多田部長)と期待を寄せる。

 商品ポートフォリオに変更はなく、本体と「濃い味」を中心に展開していく。「新しいチャレンジをしていくかと思うが、今年はスタンダード緑茶飲料の本体を磨いていきたい」という。