アサヒの緑茶飲料・新ブランド「颯(そう)」 競合がおいそれとは追随できない原料・萎凋緑茶の製造現場を取材

4月に新発売し好スタートを切ったアサヒ飲料の緑茶飲料・新ブランド「颯(そう)」。

競合ひしめく緑茶飲料市場の中で、一定の地位を獲得すべく後発のアサヒ飲料が着目したのは日本の荒茶生産量の0.02%しかないとされる萎凋(いちょう)緑茶。

萎凋緑茶とは、全く発酵させない不発酵茶の日本茶とは異なり、畑で収穫した茶葉をゆっくりとしおらせて、茶葉から香気成分の発生を促すべくわずかに発酵(微発酵)させたもの。

手間のかかる製造方法のため生産量が限られており、アサヒ飲料の調べによると、21年荒茶生産量6万9800トンのうち萎凋緑茶が占める割合は15トン。

萎凋緑茶そのものは、すでに2022年の日本茶のアワードや海外で開催されたコンクールで評価を受け、リーフ(茶葉)商品としては市場に出回っている。一方、ドリンク原料用に量産された萎凋緑茶を原料の一部に使用したのは「颯」が初となる。

アサヒ飲料の星野浩孝マーケティング本部マーケティング二部お茶・水グループグループリーダーは「2年間いろいろと試行錯誤する中で、茶葉が香り立つ微発酵の萎凋緑茶が一つの切り口になると思い立った。これまでとは違う緑茶がつくれると考えた」と振り返る。

萎凋緑茶 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
萎凋緑茶

この考えのもと、萎凋緑茶の原料供給をいくつかの企業に打診したところ、静岡県内の製茶メーカーと大手商社の協力が得られることになった。

5月15日、この製茶メーカーが手がける萎凋緑茶の製造現場を取材した。

萎凋緑茶の製造ラインについて、取材に応じた製茶メーカーの社長は「中国ではザルの中に茶葉を敷き棚に置いて発酵させているなどバッチ式(カゴなどに製品を入れて熱処理を行う方法)で行っているところは他にもあるが、オートメーションの流動式で微発酵茶葉を製造できるラインは当社にしかないと」と胸を張る。

一般的な日本茶の製造工程では、発酵させないように加工する。萎凋の香りがついた茶葉は緑茶の品評会ではマイナス評価となるためだ。

殺青された萎凋緑茶 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
殺青された萎凋緑茶

摘採した生葉を放置すると発酵が始まり熱をもつため、摘採後は送風・加湿を行い水分保持と呼吸熱の低下を図り、その後、酸化酵素の働きを止め茶葉の色を緑色に保たせながら青臭みを取り除くため圧力のない蒸気でまんべんなく蒸す。この蒸しの工程を殺青(さっせい)、または、蒸熱(じょうねつ)という。

これに対し、萎凋緑茶は、殺青を行う前工程として、約9時間かけて自動的にゆっくりと萎凋させる。

具体的には、上から下に流れる概算で総距離240メートルの網目のコンベアに茶葉を1センチの厚さで敷き、網目の下からの送風で少しずつ香りを出していく。

このシステムを構築するにあたっては「自動で量産スピードと品質の確保を両立させるのに相当苦労した。小型、大型の順にテストラインをつくり、小型でできたことを大型で取り入れ、中国から技師も招き手伝っていただいた」と振り返る。

その後の殺青の工程も一工夫を施した。

「発酵茶の香りを残すときに蒸気を使ってしまうと、蒸したときの香りと発酵の香りが喧嘩をしてしまうため、釜炒りという特殊な製法を採用し釜で炒めて殺青している」と説明する。

萎凋緑茶の製造ライン(萎凋工程)を説明する製茶メーカーの社長 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
萎凋緑茶の製造ライン(萎凋工程)を説明する製茶メーカーの社長

萎凋茶葉の製造ラインは、今回、「颯」の開発・製造に協力した製茶メーカーと商社が十年以上かけて取り組んできた中国向けの緑茶の研究が下地になっている。

「研究スタート時、これからは中国市場が伸びていくと考え、日本茶を中国に売る際に発酵していなければダメだと考えて商社さまと組ませていただいたのが始まり。その後、政治的な問題で、輸出の道が難しくなり、日本向けにラインを切り替えるタイミングでアサヒ飲料さまからお話をいただいた」と語る。

萎凋茶葉の原料の一部を構成する茶品種「べにふうき」も日の目をみそうだ。

べにふうきの圃場での機械を使った摘採の様子 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
べにふうきの圃場での機械を使った摘採の様子

「べにふうきは香りの特長が一番出しやすい品種で、緑茶にはならず、軽く発酵させないと意味がない品種。当社には60アールの圃場でべにふうきを栽培し、烏龍茶や紅茶、香りの立つお茶を試験的に製造している。これまで香りを立たせたお茶はあまり売られておらず、特にペットボトル(PET)飲料では初のコンセプト」と期待を寄せる。

萎凋茶葉を訴求する「颯」の登場によって製茶メーカー社長が消費動向で期待するのは、新規ユーザーや新たな飲用シーンの開拓。

「食事のときに選ばれるものから、『颯』のCMで描かれているようなスポーツシーンなど清涼感が求められるシーンで新たな飲用層を上手く開拓できれば、それに近いブランドのリーフティーバッグに若年層が興味を持つかもしれない」と期待を寄せる。

協力する商社の役員も取材に応じ「緑茶業界は農家さまの高齢化で厳しい状況に置かれており、最終的に農家さんが一番いいリターンを得られるようにしていきたい。農家さまが盛り上がらないと続けることができない」とコメントする。

アサヒ飲料の緑茶飲料・新ブランド「颯(そう)」 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
アサヒ飲料の緑茶飲料・新ブランド「颯(そう)」

製茶メーカー・商社の両者が思い描くビジョンの実現には「颯」の売れ行きにかかっている。

その点、滑り出しは及第点を取れ、発売開始1週間で2350万本を突破した。

初動の動きについてアサヒ飲料の星野氏は「4月の販売状況を見ると、若い方に買われている。特に、女性の支持が高く、これまでPETの緑茶飲料を飲んだことのない方が手に取ることが増えているのは、間違いのない事実。飲用シーンとしては、もちろんお茶であるため日常生活が基本だが、定性ではあるが、SNSで部活や体を動かしたときに飲まれるといったお声をいただいている」との見方を示す。

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