国土の8割以上を農地が占める欧州西端の島国アイルランドは、酪農でも長い歴史を持つ乳製品の一大生産国だ。国内では約1万7,000の酪農家が牧場を営み、約160万頭の乳牛を飼育。生乳生産量は近年右肩上がりを続け、昨年は約880万㎘と10年前の1.6倍にまで拡大した。
恵まれた自然環境を生かした伝統農法が家族経営の酪農によって代々受け継がれ、乳牛たちは栄養豊富な牧草をたっぷり与えて育てられる。多くの農家が自ら会社を運営。生乳の生産から加工までを手掛ける「共同運営構造」と呼ばれるシステムによって、さまざまな製品が生み出される。
「輸出にフォーカスした農業に取り組む国として、各企業の研究開発部門がお客様ニーズに対応するための研究に注力。それぞれのマーケットの期待に応える高品質の製品を生産している。また、さまざまな製品への利用に対応した機能性を備えているのも、アイルランド産乳製品の特徴だ」。アイルランド政府食糧庁(ボード・ビア)のジョー・ムーア氏は説明する。
生産者、加工業者、小売業者など乳製品に関わる企業・団体は、EUの厳しい食品安全基準を遵守するだけでなく、アイルランドの国家的食品サステナビリティプログラム「オリジングリーン」に加盟。第三者による測定・監査を実施することで、世界最高水準の食の安全性とサステナビリティの向上を目指している。
昨年は約165万tの乳製品を世界に輸出。このうち日本向けは1万8,000tと全体から比べればまだ少ないが、19年発効の日EU経済連携協定(EPA)の恩恵もあり5年間で約3倍という急成長を遂げている。
アイルランド産乳製品を代表する品目のひとつが、「ケリーゴールド」ブランドが世界的に知られるバターだ。飼料の主体である牧草に含まれるβ―カロテン由来の自然な黄色とクリーミーな甘さが支持され、日本でも近年ファンが増えている。
またチェダー、モッツァレラをはじめとしたチーズや、乳児用粉ミルクなどに使われる粉乳でも、顧客のニーズをふまえ各用途に応じて機能を付加した多様な規格の製品を供給する。
アイルランドの酪農家も、2022年は生産コスト上昇による大きなハードルに直面。困難の中でも、近年の生産拡大への努力を背景に生産量は前年水準をキープしている。
「価格高騰などさまざまな問題がありながらも、日本のお客様にはこれまで通りアイルランドの乳製品を購入いただき感謝している。来年も出展を予定している3月のFOODEX JAPANでは、テクニカルセミナーも実施。現地サプライヤーの参加も計画中だ。ぜひ会場でお会いしたい」(ムーア氏)。