5月までに大半の市場取引が終わった22年産新茶をめぐり、PETボトル飲料に使われる荒茶の引き合いの低調ぶりがささやかれている。毎年まとまった需要のある「ドリンク原料」だが、今季は大手メーカーを中心に仕入れが慎重だったとの見方だ。ドリンク原料需要は低迷が続く新茶相場を下支えしてきただけに、来季以降もこの在り様が定着すれば新茶相場のトレンドが変化する可能性がある。
毎年の新茶取引では、荒茶1㎏当たり数千円で相場が始まり、日が進むごとに値が下がっていき、1千円台で止まるのが一般的だ。しかし、今季は静岡の複数の産地で、一番茶で二番茶水準となる千円未満の値を付ける商いが散見されたといい、買い手である茶商側から「このまま安値が進めば、生産者が辞めてしまう」と心配する声が出るほど茶価が振るわなかった。
静岡茶市場は静岡県産の数量が前年同期比8%減、平均単価は5%減(5月末時点)と「数量減・単価安」となり、いずれも前年実績を下回った。対する鹿児島も、番茶については「ドリンク原料としての引き合いが弱かった」(JA鹿児島県経済連茶事業部「令和4年産一番茶取引概況」)と話題が尽きないシーズンとなった。
消費減退に歯止めがかからないリーフ茶に比べると、PETボトル茶のマーケットは安定成長を続け、緑茶飲料全体でみると4千500億円規模で推移。ライフスタイルや嗜好性の変化に対応しているほか、簡便性が支持されている。今季はこうした流れとは裏腹に、一番茶でのドリンク原料の引き合いが鈍かったため、例年買い支えてきた大手メーカーたちの動きに一層注目が集まった形だ。
ドリンク原料をめぐる仕入れ動向が変化した背景の一つとして、大手が自社による原料調達の枠組みを確立したとの見方がある。契約した農家から直接茶葉を買い取ったり、自社で茶園造成を推進したりすることで安定的に原料を確保。自社独自の仕入れルートを徐々に拡大させた結果、市場から仕入れる比率が相対的に下がったという見方だ。
他の大手茶商によると、茶葉に含まれる成分や自社製品に適した形状や水色など、品質基準を厳格化する仕入れ傾向も強まっている。今季は摘採適期に雨天が続くなどしたため、茶葉の品質低下が徹底した選別買いの一因になったとの指摘もある。
近年、高価格帯の茶を取り扱う専門店の仕入れが弱まり、スーパーや量販、直営店といった強固な売り先を持つメーカーたちが存在感を発揮してきた。茶生産者にとって一番茶は、二番茶、三番茶、秋冬番茶と比べると高値が期待できる。来季以降、大手の仕入れに依存していた生産者の動向によっては、茶葉全体の供給量が減ることが予想され、相場全体にも影響を与えそうだ。