「原材料や資材、エネルギー、物流費などあらゆるコストの引き上げに直面している。円安の進行も加わり、経営、家計への影響はすでに現実のものとなり、猛烈な勢いでわれわれの事業環境を変えようとしている」。20日の総会で就任した日本チェーンストア協会の三枝富博新会長は総会後の会見で、チェーンストアを取り巻く環境の急激な変化への対応、原材料価格高騰と価格転嫁に対する考えなどについて語った。
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価格転嫁の問題については、これまでとは別次元の領域で、きわめて重い課題。あらゆるものが値上げに動くなか、最大限企業努力してもコスト増加分の吸収が困難な場合、個々の企業が対応を判断することになるが、われわれの扱う商品の多くは日常使いの頻度品中心であることから、「適正価格は何なのか」ということに対する自問自答が不可欠だ。「生活必需品は購入せざるを得ないので、値上げをしやすい」との指摘もあるが、それほど単純でないことは明白だ。今後、お客様の生活防衛意識は一段と高まり、消費全体が落ち込むのではないか。一度落ち込んだ消費とそのマインドは悪循環となり、回復までにかなりの時間を要することは避けられない。そんな見通しを持っている。
日本はコロナの発生により、コロナ貯蓄が1年で2.5倍、50兆円に増えたと聞いている。将来不安に備える予備的貯蓄にまわっているということだろう。先行きの不安や、日常生活に与えるインパクトが顕在化する前に、チェーンストア運営や国民生活に直接影響が出る制度・施策に対しては、問題点、実態との乖離など率直な声を出し、改善要望の働き掛けが必要になるものと考えている。政府の事業規模約13兆円の(物価高騰への)「総合緊急対策」で、家計負担の軽減や景気刺激対策がどうなるのか、行方を注視していく。
これまでのような自助努力だけでは現状の価格を維持できない。ただ、巷間言われているような「価格転嫁、価格引き上げは止むなし」ということが通るのかという話。留意しなければいけないことは、われわれ自身が最終消費者と対面するビジネス、接点となるビジネスであるということ。コストアップ、物価上昇の問題についても、「お客様視点、お客様目線で見た時にどうなのか」ということを自問自答しながら進めていかなければならない。
お客様は「安さ」「お値打ち」「お値ごろ」「納得感」「価値」など、多面的な要素を総合的にみて判断される。どこを重視するかは個々の企業のあり方により変わってくる。(現在の原材料価格などの高騰は)短期収束はしない。そうなってくると、店頭では買上点数の低下、販売数量減になる。製配販一体となった取り組みが出てこなければいけない。商品にどうやって付加価値をつけるのかという視点であったり、売り方の工夫であったり、(お客様が)買いやすいような提案・提供の仕方であったり、いろいろなことを考えながら対応していくことが求められる。
給与が上がらないなかで物価が上がるということについては、生活防衛的なものが強くなる。店頭では、(価格の)上がるものを(上がる前に)買いたい、安いものを買いたいという空気が一部出ているが、「どうせ食べるのであれば健康にいいものがほしい」というお客様もいらっしゃる。一律に「価格が上がると困る」というだけの話ではない。より細かくマーケットをみて、お客様の考える適正価格とは何か、そういう視点から製配販が取り組んでいく必要がある。