家庭用レギュラーコーヒーは、豆商品による本格志向への対応とドリップコーヒーによる簡便ニーズ獲得の動きとともに、カフェチェーンや老舗喫茶店の名前を冠したショップブランドを前面に押し出して、外出自粛による外食店への来店機会減少の未充足ニーズを取り込もうとする動きが顕著になってきている。
直営の喫茶店を多数展開する小川珈琲は、情緒感を前面に押し出したパッケージの期間限定コーヒーが好調。19年から3年連続で売上げを伸ばしている。
同商品は、パッケージで「春」「夏」「秋」「冬」の季節を表現したもので、今年、その勢いを加速させるべくパッケージを刷新し、2月に発売された「春珈琲」を皮切りに順次切り替えていく。
「相場高騰でコーヒーの価格が上がると、なおさらコーヒーはお客様にとって価値あるものでなければならない。期間限定では今回磨きをかけて価値を表現した」(村上祐一第二営業部長)と語る。
キーコーヒーは「珈琲とKISSAのサステナブルカンパニー」を開発テーマに掲げ、喫茶店ブランドのコーヒーに商機を見出す。
昨年、京都市内を中心に喫茶店「イノダコーヒ」を運営するイノダコーヒ(本社・京都市)と業務提携契約に向けた基本合意書を締結して9月に新発売した「京都イノダコーヒ」ブランドの販売好調を受け、今年、そのラインアップを拡充した。
キーコーヒーの田中正登志R&Dグループグループリーダーは「コロナ禍になって、コーヒーショップや喫茶店のコーヒーの味わいを家庭でも楽しみたいニーズが高まってきている。この流れと高級感のあるイノダコーヒブランドの強さが掛け合わさり店頭で非常によい効果を生み出している」と期待感をにじませる。
3月1日に新発売したのは計6品。
昨年9月に発売開始した「京都イノダコーヒ オリジナルブレンド」(180g粉)と「同モカブレンド」のレギュラーコーヒー2品に簡易抽出型コーヒー「ドリップ オン」シリーズ2品を追加し、リキッドコーヒーと有機コーヒーのカテゴリーで2品ずつ新商品を投入した。
昨年、1%増と推定されるレギュラーコーヒー市場の伸びを大幅に上回り、22%増を記録したのは、ネスレ日本が販売するスターバックス家庭用商品。
中でも「一際伸びているのはレギュラーコーヒーの粉と豆。在宅時間が長くなり、カフェで飲める味わいを簡単にご自宅で飲めるのが重要であると受け止めている」と説明するのは、ネスレ日本の古山裕巳飲料事業本部コーヒーシステム&スターバックスCPGビジネス部部長。
ネスレ日本が、スターバックス家庭用商品と他ブランドとの併買率を調べたところ「他ブランドとの併買なし」が78%を占め、認知経路を調べると店頭がトップであることが判明。
これを受け、店頭でのブランド訴求を強化していくため、スターバックス家庭用商品全品にスターバックスカラーとされる緑色を基調とした新パッケージを採用して今春から発売している。
現在、市場に出回る喫茶店・カフェブランドには「小川珈琲」「イノダコーヒ」「スターバックス」ほか、伊藤園が昨年6月にドリップコーヒーを皮切りに参入した「タリーズコーヒー」や味の素AGF社の「森彦の時間」などが挙げられる。
この中で「森彦の時間」は、AGFと北海道で喫茶店「森彦」などを営むアトリエ・モリヒコとの協業によって19年に誕生したブランドで売場にじわり浸透している。今年は、アイス飲用の提案として「森彦の時間」から「アイスコーヒーブレンド」(160g粉)を新発売した。
同商品は「森彦」本店で提供されている急冷式のアイスコーヒーを志向した深煎りとなっており「具体的にはどっしりとした深い苦味と後味のキレのよさを実現した」(味の素AGF社の江村治彦リテールビジネス部長)という。
新たな動きとしては、UCC上島珈琲が3月7日からコーヒー専門店「上島珈琲店」ブランドのレギュラーコーヒー豆、ワンドリップ(ドリップコーヒー)、粉商品をスーパーなどの小売店やECで新発売した。
同ブランドの店舗やEC以外での展開は今回が初めてで、コロナ禍の外出自粛で外食チェーンや老舗喫茶店の名前を冠したショップブランドの引き合いが強まっていることを受けた動きとなる。
UCC上島珈琲嗜好品マーケティング部の赤石朋氏は「店頭をみると、豆や粉といったカテゴリー別での展開だけではなくて、ショップブランドでコーヒー棚をつくる動きも多く見受けられる」と語る。
この背景については「お客様がコーヒーを飲みものとしてではなく、コーヒーを淹れる時間や飲んでいるときの寛ぎの時間・空間を楽しみたいというニーズからショップブランドが拡大している」との見方を示す。
他のショップブランドとの差別化については「カフェラテなど洋風イメージを前面に押し出したショップブランドが多い中で、『上島珈琲店』はレトロとモダンが融合した喫茶店寄りのイメージでユニークな価値が提供できると考えている」と胸を張る。
インテージ SRI+データによると21年1-12月レギュラーコーヒー総市場は前年比1.1%増の574億7000万円。
カテゴリー別では、袋(豆)が19.9%増(26億1000万円)と最も高い伸びをみせ、ドリップコーヒーなどの個包装も4.7%増(242億7000万円)と拡大した。
ボリュームゾーンの袋(粉)は2.1%減(271億3000万円)となったものの、コロナ前の19年と比べると7%程度拡大している。