加工品の販売により全国の産地を応援することを目的に全国農業協同組合連合会(JA全農)によって21年6月に立ち上げられた「ニッポンエールプロジェクト」が国内各地に存在する魅力ある国産農畜産物の振興を推進すべくスタートを切った。
JA全農と、プロジェクトの最初の参画企業である伊藤園、「ニッポンエール」ブランドの開発・販売を担う全国農協食品を交えた座談会を3月に開催。スタートから1年ではあるが全国各地に存在する魅力ある果物の認知拡大に日々取り組んでいる姿がうかがえる内容となった。
プロジェクト商品の素材選定には「もったいない」「継続」「現場主義」という考えが息づいている。
産地応援という一貫したテーマ性を持つ取り組みは、少子高齢化や人手不足に悩まされる国内農業の課題に一大ムーブメントを巻き起こす――。そんな可能性を感じさせる大放談でもあった。
〈参加者〉
――JA全農の山田晋也さん(営業開発部MD企画課調査役)
――全国農協食品の秋谷健太さん(ソリューション営業部ブランド販売課審査役)
――伊藤園の山口哲生さん(マーケティング本部野菜・果汁ブランドグループブランドマネジャー)
――伊藤園の上野大輔さん(マーケティング本部野菜・果汁ブランドグループ商品チーム)
――伊藤園の本部晋太郎さん(広域量販店営業本部量販店営業一部第二課課長)
――聞き手:食品新聞編集部
■発想の転換でブランディングを推進した黄色く熟した「大分県産完熟かぼす」
――プロジェクト発足の経緯は。
秋谷 以前から「日本の農業の発展のために何かできることはないか」と考えていた。その想いから「ニッポンエール」ブランドの立ち上げに携わり、伊藤園さまには19年3月に「毎日の健康茶」(リーフ)、20年4月に「濃い健康青汁」を共同開発・発売していただいた。そこから、より全国の産地の想いや課題解決にお役立ちしたいと「ニッポンエールプロジェクト」をスタート、その第1弾商品として飲料の共同開発を伊藤園さまにお願いした。
本部 伊藤園としてニッポンエールプロジェクトの想いに熱く賛同し、全国の生産者さまの想いやJA全農さまとの共同開発のモノづくりの部分をしっかりと伝えるといった営業活動を通じて販売拡大に努めている。
山田 JA全農としては「ニッポンエール」のブランディングに携わっている。「ニッポンエールプロジェクト」では産地を訪れ生産者さまとお話しながら課題などを吸い上げるなど、生産者さまとの懸け橋となるよう努めている。
山口 伊藤園としてはプロジェクト第1弾で宮崎県産日向夏を使用させていただいた飲料「宮崎県産日向夏」をJA全農さまと共同開発して21年6月7日に発売した。
どんな魅力的な素材があり、どのくらいの量を供給いただけるのかといった情報をJA全農さまと全国農協食品さまからいただきながらコンセプトづくりやマーケティングプランを立案し、商品開発を進めている。
上野 私は商品開発の実務担当者として、第1弾の開発にあたっては、日向夏の名前は知っていたものの食べたことがなく、産地から日向夏の青果を取り寄せて食べてみるところからスタートした。
日向夏は白皮にほんのりした甘みがあり、果肉と一緒に食べることで、まろやかでさわやかな味わいが特長であることがわかった。このような気づきからプロジェクトではまずは青果を食べ、生産者さまに味わい作りを直接アドバイスいただき、ご納得いただける内容にすることを心掛けている。
秋谷 現在、飲料に先立って展開している「ニッポンエール」のグミが半年で300万個販売するなど好調に推移しており、このようなことを伊藤園さまとの共同開発で展開していきたい。ドライフルーツも手掛けており、これらの素材探しで全国各地を回る中で、飲料の果汁原料も希少性と物量のバランスをみながら探索している。
――既に手応えはありましたか。
山口 私が秋谷さまから教えていただいて感動したのは、完熟した黄色のかぼすがあるということ。黄色の完熟かぼすは、まろやかな酸味が特長であるが、人手不足で収穫しきれずに廃棄されていることを知り、第2弾では、この黄色の完熟かぼすを使った「大分県完熟かぼす」を発売した。その結果、多くの消費者の皆様に味わっていただき、完熟かぼすの認知拡大にお役立ちできたのではと思っている。
秋谷 大手メーカーさまの発信力は本当に大きい。プロジェクトは果汁に留まらず広く農畜産物全般を対象としているため、飲料以外でも様々なカテゴリーで商品開発を行い、生産者さまの思いを多くの方に届けていただきたい。
各地を訪れると、本当においしい素材が実に多いことが分かる。このような実態はインターネットでは把握しきれず、実際に足を運んで教えられることが多い。
完熟かぼすは、たまたま現地で見かけて生産者からお話を聞き「もったいない」と感じたのが提案のきっかけとなった。
かぼすは本来、緑色で酸っぱい。それが時間の経過で黄色くなると糖度が高まり甘くておいしい味わいに様変わりする。黄色の完熟かぼすは、大分県内では流通されているが、全国に広められれば新たな需要が生まれるかもしれない。そしたら実際その通りになり、非常に嬉しく思っている。
全農大分県本部は完熟かぼすの取り組みで、JA全農内で表彰され、職員や生産者の意識も一変した。「ブランディングによる需要創造」の発想が浸透しつつある。
上野 飲料開発者としても実際の青果の購入につながるのが一番嬉しい。伊藤園が飲料を出すことで、今まで知らなかったお客様に飲んでいただき、実際に青果の購入につながれば産地振興にもつながりうると考えている。
秋谷 日本の農業は人口減少を考えると厳しい環境である。しかし加工原料のための生産という発想もあるのではと考えている。
ただそのためには、この取り組みを継続させないといけない。産地に貢献するためには継続することが重要。次の年、その次の年も出しつづけないといけない。なにより、小売さまが継続して売場をつくって下さるような商品開発が肝心だと思う。
本部 ニッポンエールプロジェクト第1弾「宮崎県産日向夏」のときは日向夏の青果を全国の拠点に送り、全営業が日向夏を味わい、しっかり理解した上で営業活動を展開していった。
商品のご提案と同時に「ニッポンエールプロジェクト」とはどういうものなのかをお伝えし、ご賛同いただけるよう営業活動に努めている。
伊藤園は、お客様第一主義という理念のもと、地域密着営業で店舗の売場づくりまで、お手伝いさせていただくルートセールスが強みとしている。
それぞれの営業担当と販売先さまの思いが重なると、自作のPOPを作って下さるなど創意工夫していただき、素晴らしい売場にしていただく事例も多々生まれ手応えを感じている。
上野 生産者さまは本当に愛情をかけて農作物を作られているため、農作物そのものイメージを向上できるような商品開発に努めています。この取り組みは継続が大事であることから、昨年6月に新発売した「宮崎県産日向夏」はさらに磨きをかけて近くリニューアル発売していく。
山田 JA全農で昨年、「宮崎県産日向夏」の発売に伴いインスタグラムで日向夏が当たるキャンペーンを実施した。日向夏の収穫時期が1月からとなるため、今年1月にプレゼントをお渡しする内容で100人の当選枠に1万人以上のご応募をいただいた。
生産者さまにとって、実際に生果を食べていただく機会が生まれる。今回、リニューアルする際も、そのようなキャンペーンを続けていきたいというお話をいただいている。
「大分県完熟かぼす」のような波及効果も期待している。完熟かぼすについては、伊藤園さまとのお取り組みを皮切りに異業種のさまざまなメーカーさまからお問合せをいただいている。
■時宜にかなった「全国の産地を応援する」のテーマ
――今後の取り組みは。
山口 事業としてはまだ緒に就いたばかり。生産者や日本の農業の助けになるような社会貢献を本気で考えていかなければと真剣に考えている。生産者応援の理念をしっかり貫き、お客様に共感してご購入していただくことが重要。現在は果実のみの展開だが、野菜飲料の可能性もあり、非常にいい機会をいただいたと感謝している。
秋谷 伊藤園さまから4月11日に新発売の 「長野県産りんご三兄弟」に期待している。これは秋映・シナノスイート・シナノゴールドの長野県生まれの3品種をブレンドしたもの。
今後も継続して共同開発を進め、年間通じてニッポンエールプロジェクトの飲料商品を販売していけるよう取り組んでいきたい。
このようなテーマ性のある商品はこれまで単品ではあったもののシリーズではなかった。「全国の産地を応援する」の一言が今のご時世にはまったのかもしれない。
山口 現代のデジタル社会の中で、同時にアナログやリアルの世界が求められるというのは非常に強く感じる。ストーリー性があり、なんとなく飲んでいるときに生産者の顔が思い浮かぶような温もりの要素は今の時代に合っているように感じる。
上野 実際に飲料をご購入いただいたお客様から「日向夏を買ってみたい」とのお声をいただき、私としてはそれが非常に嬉しかった。繰り返しになるが、これからも生産者が手塩にかけられた農作物にスポットが当たることを念頭に商品開発を進めていきたい。
本部 我々はいってみればニッポンエールプロジェクト創業メンバーであり、我々で終わらせないように次につないでいけるようにしっかり足場を固めつつ、創業メンバーの熱い思いをしっかりお伝えして全国の産地を応援し続けられるよう活動していきたい。
山田 今後も引き続き、JA全農は伊藤園さまと協力して「ニッポンエールプロジェクト」を推進し、国産農畜産物のPRやキャンペーン等を展開し、商品を通じて産地を応援していきたい。