低い知名度こそ強み キリンの国産ウイスキー 飲まない層にアプローチ

キリンといえばビール。だが「キリンのウイスキー」と聞いて、銘柄が即座に思い浮かぶ人は少ない。そんなイメージの希薄さを逆手に、ウイスキーになじみのないユーザーに新鮮な提案を行う。

キリンビールの堀口英樹社長は17日の会見で「私も09~13年にウイスキービジネスに携わり、米フォアローゼズ社で社長をしていた。アメリカンウイスキー・スピリットを活用しながら『陸』『富士』を大きく成長させていきたい」と、国産2ブランドの飛躍へ意気込みを語った。

同社の国産ウイスキー事業は1972年にスタート。米JEシーグラム社(当時)、英シーバスブラザーズ社との3社合弁でキリンシーグラムを設立し、翌年に富士御殿場蒸留所を開設。さまざまなブランドを輩出してきた。19年には同蒸留所で80億円の設備投資を実施。20年に「キリンウイスキー 陸」「キリン シングルグレーンジャパニーズウイスキー 富士」を発売した。

昨年には定義が明確化され、海外からも注目を集めるジャパニーズウイスキーを「10年先のキリンビールを支える事業」と位置付け育成。海外への輸出も強化する。

「キリンという会社には、ウイスキーのイメージがほとんどない。キリンのウイスキーは、お客様にとってすごく新鮮な提案になる」と語るのは事業創造部の原田崇氏。「ウイスキーといえば難しいもの、スモーキーで飲みにくい、バーで飲むものなどのイメージがある中、新しさや革新を伝えやすい」とみる。

同社の調べでは、ウイスキー(ハイボール缶含む)を自宅で3か月に1回以上飲むユーザーは約1千200万人。一方で、店では飲むが自宅では飲まない人が1千700万人、飲んだことがない人も4千900万人いる。「そうした中でわれわれはまだチャレンジャーだが、チャレンジャーだからできることがある」(原田氏)として、同社国産ウイスキーの成長を通して市場全体の活性化を狙う。

500㎖瓶で1千円台と、エントリー層も手に取りやすくコスパの高い「陸」は4月5日からリニューアル発売する。

富士御殿場蒸留所の多彩な原酒を主体にブレンド。ほのかな甘い香りと澄んだ口当たり、何層にも感じる香味豊かなおいしさを強化した。パッケージも視認性や品質感を向上させたデザインに。国産ウイスキーとして17年ぶりのTVCM投入、デジタルを駆使した1億リーチのPR、50万人規模の飲用体験など、同社ウイスキー市場最大規模のコミュニケーションを展開。普段ウイスキーを飲まない人に、新たな選択肢の提案を行う。

5千円超のプレミアム価格帯「富士」には、単一蒸留所の原酒のみをブレンドした「シングルブレンデッド」を6月7日から追加。モルトとグレーンを同一の蒸留所で扱うからこそできた、新しいスタイルのウイスキーだという。さらに4月からは中国・オーストラリアでの販売も開始する。

22年の販売計画は「陸」19億円(前年比147%増)、「富士」12億円(202%増)と野心的。国産ウイスキー全体で78%増の42億円を目指す。