本格焼酎復権へ奮闘 コロナ禍の逆境をバネにデジタルフル活用で成果 濵田酒造

市場の長期低落から脱せずにいる本格焼酎。財務省の統計では、19年までの10年間で課税数量は約2割の減少を記録している。復権を目指し模索が続く中、デジタルを駆使した取り組みで目を引くのが、明治元年創業の濵田酒造(鹿児島県いちき串木野市)だ。

「海童」「隠し蔵」などで知られる、売上高国内6位(帝国データバンク調べ)の焼酎メーカー。コロナ禍も背景に低迷する業界にあって、前期は5期ぶりの増収増益を達成した。最新鋭のオートメーション設備を配した工場で各工程のノウハウをデータ化。安定品質と効率生産を実現し、昨年に「グッドカンパニー大賞」を受賞した。

このところSNSで人気を集めるのが、同社の本格芋焼酎「だいやめ~DAIYAME」である。

「創業150周年を機に業界の次代を担い、若い人にも受け入れてもらえるこれまでにない本格焼酎を造ろうと考えた。イモの香りが苦手な人には、味が良くても飲んでもらえない。新たな焼酎ファンの獲得へ『香り』を基軸に開発。鹿児島産原料と向き合い、何も加えず独自の熟成技術で課題を乗り越えて造り上げた」。

そう説明するのは、同社マーケティング本部の川野修郎氏。原料芋のコガネセンガンを独自の技術で熟成させた「香熟芋」で仕込むことで、瑞々しいライチのような甘くフルーティな香りを実現できたという。炭酸で割ると心地良い香りが花開く酒質だ。

18年の発売以来、イベントでの試飲を通じてSNSを中心にじわじわと評価が高まる。翌年には世界三大酒類コンペティションの一つ「IWSC」でSHOCHU部門最高賞を受賞。ロンドンでの授賞式の話題を戦略的に逆輸入し、タイムリーに発信したことで一気に注目を獲得。注文や問い合わせが殺到した。

コロナ禍で開催困難となったリアルイベントに代わり、20年から実施しているのが「Shall we DAIYAME全国デジタル体験」だ。「だいやめハイボール」に加え、さらに家飲み時間を楽しくする「クールだいやめ」やカクテルなどの新たな飲み方をオンラインで提案する催し。

参加者には事前に「だいやめ」体験キットを送付し、自宅で楽しみながらオンライン参加できる。昨年はFMラジオなど全国9都市の地域メディアとタイアップして開催した。

イベント後はAmazonで販売ランキングが急上昇。SNSでも「焼酎が苦手な人でも飲める」と高評価を獲得するなど、反響を集めた。

ラベルにメッセージを入れられる「熟成と共に福来たり」(濵田酒造) - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
ラベルにメッセージを入れられる「熟成と共に福来たり」(濵田酒造)

オンラインショップ「Shochu.Life(しょうちゅうどっとらいふ)」を20年10月から開設。昨年には1周年を記念して、薩摩金山蔵の本格芋焼酎「熟成と共に福来たり」のネット販売を開始した。串木野金山跡地の坑洞を活用した蔵で最長5年間の貯蔵熟成ができ、延長も可能。ラベルにメッセージを記入してタイムカプセルのように楽しむこともできるユニークなアイテムだ。

「今はネットで注文すれば翌日には届く時代だが、これは熟成を経て数年後に届くというちょっと変わった贈り物。ネットでの発売以前から、見学者向けに展開してきた。子どもが成人式を迎えるときなどに贈る方もいて、長い方はもう20年近くも預けている。ゆっくりと時の流れを感じながら、大切な人に未来の贈り物を用意しておけるタイムトリップ感が支持されているのだと思う」(川野氏)。

時代に寄り添いながら一歩先を行く商品開発。そしてデジタルをフル活用した顧客アプローチで、新たな焼酎ファンを獲得する濵田酒造。チャレンジはまだまだ続く。