2002年に発売開始し右肩上がりの成長を遂げている味の素AGF社の「ブレンディ」スティックは、スティックカテゴリーのパイオニアで約5割弱のトップシェアを握る。
取材に応じた星俊平さんは「増量や価格ではなく、生活者とのつながりを強化すべく種をまいてきたことの効果がだんだん現れてきている」と語る。
その種まきの代表例がメッセージ付きスティック。
16年に「ココア・オレ」と「紅茶オレ」の2アイテムで開始してから年々規模を拡大し今期は対象品種を前期の5品種から全品種へと拡大し、メッセージ数も150種類から180種類に増やして展開している。
生活者に寄り添い誰にとっても優しいメッセージを心がけている点が特徴で、6アイテムを基軸に下記のコンセプトを設けている。
――「カフェオレ」系:前向きメッセージ
――「大人のほろにが」系:はげましメッセージ
――「紅茶オレ」系:のんびりメッセージ
――「ココア・オレ」系:甘やかしメッセージ
――「抹茶オレ」系:和みメッセージ
――「ほうじ茶オレ」系:ほっこりメッセージ
スティック一本一本に〈短所じゃなくて、チャームポイント〉〈悩んじゃうのは、君がやさしいから〉といったさまざまなメッセージが添えられ、これが想定以上に生活者の琴線に触れ、ほぼ毎日のように感謝の声が寄せられているという。
「SNSでは少なくとも毎日一件はメッセージに関する投稿が寄せられ、週に数通のお手紙を頂戴している。我々社員の励みになっているとともに、切羽詰まったリアルなお声もあり身につまされることもある」と述べる。
直近では“#カフェオレどき”のキャンペーンが好評となった。
“カフェオレどき”とは、暮らしの中で見つけたカフェオレを味わうのにぴったりな時間という意味で、AGFが全体方針に掲げて集中しているRest(休息)・Relaxation(安らぎ)・Refreshment(気分一新)の3Rに根ざした企画となる。
企画立案した宇田和紗さんは「休息をとることにまだまだ否定的な見方が大勢を占める日本において、いい一日を過ごすために短い時間でも休息をとることの大事さに気付いていただきたいと考えた」と振り返る。
12月12日まで実施したカフェオレどきの写真を投稿して応募するキャンペーンでは、目標を大幅に上回る件数の応募が得られた。
その起爆剤になったのがインフルエンサーによる発信。
企画を取り仕切った坂本今日子さんは「生活者がいきなり休息時間を投稿するのは難しいということで、最初は数人の有名インフルエンサーにお願いして発信していただき、憧れの写真をスクリーンショットで投稿する二次拡散企画をクッションに挟んで、その方たちのフォロワーの共感につなげていった」と説明する。
生活者との絆をさらに深めるための施策として、厳選した投稿写真を来年2月下旬放映予定の新CMやWEB動画で紹介することを告知している。
「“一緒にCMをつくっている”という共創的な観点から愛着を深めていただきたく最終的なアウトプットにもこだわった」(宇田さん)という。
投稿者の多くはブランドのメインターゲットである30-40代の女性。
新規顧客の獲得策としては、19年から春夏の期間限定で展開している「冷たい牛乳で飲む」シリーズが有効で10代・20代の若年層の取り込みに成功している。
「冷たい牛乳で飲む」をきっかけに秋冬に「ブレンディ」スティックを継続飲用する動きもみられる。
「発売以降、春夏に新規ユーザーを取り込みながら、秋冬も通常商品が継続して購入されるという非常にいい流れができている。今年も同じ流れが継続しているとみている」(星さん)。
ミルクティーやミルクココアなどのノンコーヒータイプの活性化という点でも新規顧客の取り込みを図っている。
その点、好スタートを切ったのは今秋新発売した「チャイティーオレ」と「ジャスミンティーオレ」の2品。
中でも「ジャスミンティーオレ」が若年層の心をとらえた。
「特にターゲットとした20-30代女性において『ジャスミンティーオレ』のリピート率が圧倒的に高く、若年層に非常に支持されている」(坂本さん)と胸を張る。
一方、「チャイティーオレ」は奥行き(1人あたりの飲用頻度)拡大に寄与。「『紅茶オレ』を主に飲用されている方に『紅茶オレ』の“もう一品”として買い回っていただいている」とみている。
2品のパッケージにNEWマークをあしらったことも奏功した。
「2つの組み合わせでNEWという印象を持たれ『ジャスミンティーオレ』にしか興味のない方がセットで購入して下さる傾向も出てきている」という。
今後の施策としては、今年1月下旬をめどにノンコーヒーの発信を強化。「紅茶オレ」「ココア・オレ」を中心に各フレーバーの機能価値に特化したコミュニケーションを展開していく。
既に岩田剛典さんを起用したTVCMでもブランド全体の機能価値を訴求している。
「これまで情緒価値を中心に訴求していたが改めて“ふんわり口どけ、ミルクなあまみ”といった商品の機能価値にフォーカスしたところ、狙い通り本格感・おいしさを伝えられており手応えを感じている」(星さん)と総括する。
なおスティック市場は20年、コロナ禍の外出自粛や家庭内時間の増加を受けて前年比11%増となり450億円を突破した。
スティックは簡便で持ち運びにも適していることから家庭外の飲用機会にも対応。この特性により、今年前半、インスタントコーヒーやレギュラーコーヒーなどが20年の反動減で前年を割り込む中、4-9月のスティック市場は1%増と推定される。