「ながらストック」で次の災害へ賢く備えを 農水省に聞く

あの大震災から10年。日頃からの食糧備蓄の大切さが多くの家庭に浸透する一方、実際の行動はいまだ不十分という実態もある。この間にも日本列島は毎年のように自然災害に見舞われ、幾多の被害から教訓も生まれてきた。農林水産省では、一人ひとりが平時からの食料備蓄に取り組むことを呼びかけている。現状や課題について、同省で食料安全保障を担当する鈴木健太氏に話を聞いた。

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――これまでの取り組みについて。

鈴木 農水省では平成14年3月に、不測時の食料安全保障マニュアルというものを定めた。平成5年の大冷害によるコメの凶作なども踏まえて全国的に食糧が不足した場合の対応だったが、これは量的な確保に主眼が置かれた対策だった。だが東日本大震災では、食品メーカーの工場や流通が局所的に混乱を起こし、輸送の障害なども発生した。物資の偏在によって、局地的かつ短期的に食糧が不足したのが大きな特徴だった。

この教訓を踏まえて、食糧供給に関する関係機関の役割、制度面での環境整備、情報共有をどのようにしていくべきかをまとめた緊急事態食糧安全指針を平成24年に策定。緊急時に食糧を安定的に供給するため、個別の食品事業者が事業を継続していくためのBCP策定などを行うことで、サプライチェーンの機能を維持することがポイント。各事業者の立地や条件、製品や原料の特性に応じて、企業間連携やバックアップ機能の整備などが行われるようになってきている。

――民間での災害備蓄はどの程度進んでいますか。

鈴木 東日本大震災以降は、民間企業や病院、団体、福祉施設では従業員の3日分以上の食糧や飲料水、生活必需品を備蓄しているところが増えてきた。中央防災会議が策定している基本計画でも、家庭での3日分の食糧備蓄を提唱している。

この間の大規模な自然災害を振り返ると、熊本地震や北海道胆振東部地震、西日本豪雨、19年の台風19号など年々激甚化しており、生活者の意識も徐々に高まってきている。ただ厚生労働省による昨年度の調査では、災害に備えて食糧を備蓄している世帯は53・8%と約半数にとどまっている。備蓄している世帯でも、1~2日分だけという世帯が全体の3割程度。政府が推奨する最低3日分の食糧備蓄を行っている人はまだ少ないことには留意したい。

――「使いながら備蓄する」というローリングストックの考え方も認知が広がってきました。

鈴木 経産省が昨年から「ながら備蓄(ストック)」を提唱している。ローリングストックと同じ考え方で、普段使いしながら買い足して蓄えておこうというもの。小売の店頭にもポスターを貼ってもらって、協力を呼び掛けている。とくに豪雨が予想されるときなどは直前に買いだめが多く発生するので、日常から計画的に買い足す習慣の浸透を図るのが狙い。昨年はマスクや消毒用アルコールなどが一時的に需給逼迫した。それを避けるため、こうした消耗品も計画的にストックしていくことが重要。農水省としても、経産省と連携して「ながらストック」を促進していきたい。

――災害時に必要とされる食糧も、人によってさまざまなニーズがあります。

鈴木 とくに嚥下困難者、食物アレルギーや基礎疾患をお持ちの方などは、災害のときに弱い立場に置かれがちだ。必要な食事がなかなか摂れないために、避難所に行くこともためらってしまう。農水省でも要配慮者向けのストックガイドを出しており、もっと普及させていきたい。

セミナーなどでお話しさせていただくときに、意外にまだ知られていないと感じるのが、自治体でも備蓄食料が住民全員分用意されているわけではないということ。災害時にどのくらいの人が避難してくるかを想定して備蓄しているが、自宅避難や親類宅への避難もあり、必ずしも全員が避難所に来ることを前提にしていない。

それも念頭に置きながら、要配慮者向けの食事を用意することで、避難をためらう人が出ないようにすることが求められる。