「みんな」の行くほうへ

被験者の前には3本の線がある。さらにもう1本の線を示され、先の3本から同じ長さの線を選ぶ。正答率ほぼ100%。だが明らかに長さが違う線をサクラたちが一様に選ぶのを見せられた被験者は、15%程度の確率で彼らと同じ誤答をする。社会心理学者のアッシュらが行った実験だ。

▼ハロウィンの週末、東京・渋谷の人出が前年より激減したことが報じられた。このご時世で「日本人の良いところが出た」とする意見も目にした。強制力のない措置で外出自粛へと一斉に舵を切った日本社会についても、同様の評を聞く。

▼周囲の「みんな」がやっているうちは、群衆に紛れて乱痴気騒ぎに興じる。コロナ禍でそれがカッコ悪いという空気になり「みんな」やらなくなると、右へ倣えとばかり一斉に自粛。なるほど「日本人」だ。この空気のなかコスプレで渋谷に繰り出し取材を受けていた若者に、内心エールを贈ってしまった。

▼先の実験では「グループ同士の競争」という状況を設定すると、誤答率は倍増したという。ふわっとしたナショナリズム的言説が受け入れられやすい昨今。近代史を参照するまでもなく、「日本人」というグループへの帰属意識の高まりがはらむリスクに留意したい。