「ビール離れ」よそに快進撃 若者つかんだ「黒ラベル」 異次元の成長支える戦略とは

「若者のビール離れ」が言われ続けたこの十数年。20年秋のビール減税以降は久々に活況を呈しているとはいえ、販売額は2010年比でみれば昨年11月までの累計で86%(インテージSRI)。家庭用ビール市場の退潮が鮮明だ。だが、この間に123%と躍進を遂げたブランドがある。「サッポロ生ビール黒ラベル」。20年春から同ブランドを担当するサッポロビールマーケティング本部の齋藤愛子氏に聞いた。独走の理由とは?

続いた試行錯誤

「これまでかなりの紆余曲折があり、時代によってさまざまな訴求をしてきたのが『黒ラベル』だった」。齋藤氏は振り返る。

1977年4月1日の発売から今年で45年。瓶容器の「サッポロ びん生」として登場した当時、家庭で飲まれていたのは大半が加熱処理されたビールだった。店で飲むような「生」のうまさで、生ビールの時代を切り開いたロングセラーブランドだ。

この10年以上にわたる中期的な取り組みが奏功し、家庭用の缶は7年連続で売上げアップ。逆風にさらされる市場をよそに、独自の成長を続けた。

ただそこに至るまでのマーケティング戦略には、試行錯誤の時代があった。

「80年代には『世界がうまいと言い始めた』とメジャー感をアピール。当時のいわゆる『容器戦争』を経て、あらためてビールの中味を伝える『ビアホールの生』を掲げた時期や、温泉卓球CMのようなインパクト重視の時代もあったり、軸がブレていたので『こういうブランドだ』という印象が弱かった」。

「大人の世界観」に共感

00年前後からの発泡酒や新ジャンルの台頭を背景に、「味・価格」に代わる競争軸の確立が求められるなかで続いた迷走。これを反省し、ブランドの原点に立ち返ったコミュニケーションに着手したのが07年だ。CMでは「飲むぞ!繁盛店の生。」をアピール。「家庭で飲む『生』のおいしさ」という本質的な価値を伝え、次なる戦略の足場を固めた。

そして2010年。新たな競争軸として打ち出したのが「大人の☆生。」という世界観である。これを消費者の脳裏に強烈に焼き付けた、妻夫木聡さん出演のCM「大人エレベーター」シリーズは現在も続く。

同社の調べでは、20年までの10年間で黒ラベル購買者数は約500万人増加。なかでも「ビール離れ」が言われる20代の購入率は70%増と、異次元の躍進を果たした。

「『黒ラベル』を飲む自分が、違いの分かる大人になれた気分になる。独自の世界観にお客様の共感を得られたことが、若年層の間口を広げる大きな要因となった」。

ただ初めから「若者ありき」ではなく、戦略転換が結果的に若い人たちに響いたことが奏功したとみる。14年から展開する「パーフェクト黒ラベル」認定店での質の高い飲用体験や、コロナ前まで実施していた全国での体験イベントも通して、じわじわとファンの輪が広がった。

「完璧な生のうまさ」を

コロナ下では、若者の飲酒行動も変容。テレワーク後のオン・オフ切り替えにビールを開けたり、コンビニだけではなく初めてスーパーで6缶パックを買ったりする人も増えているという。

「飲酒人口が減っていくと言われるなか、継続成長には新しい世代の取り込みがマスト。おいしさはもちろん、それを飲むことで得られる気持ち、黒ラベルを意識的に選ぶという自己表現のようなものを含めた価値を提供していく必要がある」。

2月製造分からは、「生のうまさ」に磨きをかけてリニューアル発売。原材料の配合を最適化することで、何杯飲んでも飲み飽きない完璧なバランスの味わいを目指した。

発売に合わせ、これまでとは一味違った「大人エレベーター」のCMもオンエア予定だ。

「長年同じ内容で続けてきたからこそ実現できたCM。ロングセラーでも、進化は止めないことを伝えたい。競合もリニューアルを控えるなか、味の骨格をぶらさず『完璧な生のうまさ』をストイックに追求しているブランドであることを感じていただければ」(齋藤氏)と自信をのぞかせる。

飛躍の契機となった「大人エレベーター」CM・サッポロ生ビール黒ラベル/妻夫木聡 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
飛躍の契機となった「大人エレベーター」CM・サッポロ生ビール黒ラベル/妻夫木聡