若年層の需要創出へ
贈答海苔の老舗大手として、幅広い世代に向けた海苔本来のおいしさの訴求を強化している。一貫して上級品の仕入れにこだわる一方で、ECや30~50代に照準を定めた手土産品や、軽食用の販売といった新たな施策が好調だ。山本貴大社長に21年度漁期を振り返ってもらうとともに、現在の生産・販売動向などについて聞いた。
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――21年度漁期の仕入れ状況について教えてください。
山本 いろいろな見方があるかもしれないが、単純に品質が良かった。有明産は2回目摘みも柔らかく、1回摘みのようだった。だから、20年度よりも平均単価が上がっていると言える。本当はもっと勢いよく仕入れに動きたかったが、20年度に多めに仕入れていたこともあって、慎重になった部分はある。
新型コロナウイルス禍の先行きが見通せない中で、在庫量は意識せざるを得ないが、それでも価格に対して品質が良いものは多めに仕入れた。生産者側からみれば、おいしい海苔を多く取ったにもかかわらず、20年度よりは安値で取引されたので、来年以降の生産意欲が低下し、品質よりも数量を重視する傾向にならないか心配している。周囲からは「山本海苔店が安く買ったら未来はない」という声もいただいている。高価格帯の販売は百貨店の減少などで厳しい環境だが、踏ん張って維持していく。
――足元の売上動向と販売戦略はいかがでしょうか。
山本 「コロナ前の水準に戻す」という気概で挑んでいるが、コロナ前の19年比では80~90%をウロウロしている感覚だ。高価格帯の中元、歳暮のギフト市場が下げ止まらず、売上が毎月2~3%ずつ落ちている。マーケットが縮小している現状では、どうしても仕入れの意欲が弱くなる。これでは生産者のモチベーションが下がってしまうのは当然で、このままではおいしい海苔が減ってしまう。この「負のスパイラル」は止めなければならない。
5年ほど前に「ギフトからの脱却」を掲げて、手土産や土産物に力を入れていく戦略を打ち出した。60代以上は中元や歳暮で「本物のおいしい海苔」を味わったことがあるが、50代以下は贈答文化になじみが薄い。だから、手土産品やおつまみとして気軽に食べられる商品を開発し、ギフト品に比べると若者やファミリー層にも手が届く価格帯に設定している。コロナ禍でも、この戦略を変えずに続けてきて徐々に浸透してきている。商品の入り数は少なくなっても、品質は絶対に落とさない方針だ。
――業界全体の課題は何でしょうか。
山本 国内の海苔生産量の減少だ。かつては日本で80億枚を作って、国内ですべてが消費されて「食料自給率100%の食材」とも言われてきた。だが、数字的には自給率は70%程度に落ちている。韓国、中国産で賄われていて、需給バランスは取れているのかもしれない。しかし、仮に国内の生産量が増えたとして、労力に見合う値段で実際に取引されるのかという問題はある。販売する側として需要を創出し、市場を作っていかなければならない。日本人でも「海苔は手を汚さないためではなく、おいしいから巻くもの」という認識が薄い。業界の「最後の砦」として、良い海苔を売り海苔の価値を引き上げていきたい。