コストアップと円安で苦境の輸入水  トップブランドの「エビアン」が伝えたい国産水にはない価値とは?

 包材費や輸送費のコストアップと円安のWパンチで苦境に立たされる輸入水市場でトップブランドの「エビアン」は国産水にはない価値を問い続け成長を目指していく。

 国産水にはない価値について、取材に応じた伊藤園・伊藤忠ミネラルウォーターズの小野寺達哉社長は「国産水は規則上、加熱処理されているのに対し、『エビアン』は非加熱のため天然のカルシウムやマグネシウムに恵まれている」と語る。

 「エビアン」の水源地は、標高850mに位置する世界有数の自然保護区・フレンチアルプスにある。

 その地に降る雨や雪が、氷河期に形成された地層の中を約15年の歳月をかけてゆっくり流れることで天然のミネラルをたくわえた清らかな水が育まれ、それを加熱・殺菌せずに、採水地から一瞬たりとも外気に触れることなくボトリングされる。今年もこのような価値を引き続き訴求していく。

伊藤園・伊藤忠ミネラルウォーターズの小野寺達哉社長 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
伊藤園・伊藤忠ミネラルウォーターズの小野寺達哉社長

 「“水を飲もう。ただの水ではない水を。”をキャッチフレーズに掲げて国産水との差別化を図っていく」と意欲をのぞかせる。

 国産水との違いを訴求することで国内需要を掘り起こすことによってコロナ禍で失ったインバウンド需要を補い、販売ボリュームをコロナ以前の19年に戻していくことを当面の目標に掲げる。

 その手応えは着実に出始め、21年1-12月の「エビアン」販売実績は前年比9%増の420万ケースに達した。

 「コロナ禍で人流抑制が続いたことで自販機とコンビニチャネルでの販売が依然厳しかったものの、その分をECなどによる家飲み需要で補うことができた。330ml・500mlの小容量サイズが前年増となり、家飲みでは1.5Lが特に伸長した」と振り返る。

 ミネラル訴求についても、昨年はモデルの長谷川潤さんが出演するTVCMの放映に加えて、健康習慣と合わせて新たな体験を届けるキャンペーンなどが奏功して「特にミドルとシニアの女性のお客様からお問合せをいただくようになり関心の広がりを感じさせてくれた」という。

 今年も幅広い層をターゲットにしつつ、国産水との差別化を図るため美容や健康にフォーカスした施策を展開していく。

 2月には公式ツイッターでフィッツコーポレーションが輸入販売する化粧水「エビアン フェイシャルスプレー」とのセットが当たるキャンペーンを実施した。

 「ヨーロッパでは、良質なナチュラルミネラルウォーターということで飲用に加えて顔や身体に吹きかけるスプレーとしても使用されている。このようなことをご存知でない方に向けて『エビアン』」が“ただの水ではない水”であることをお伝えし、価値を高めるための施策としてトライアルした」と述べる。

 続いて、より幅広いターゲットに向けたコミュニケーションとして、4月1日から8月15日にかけて長谷川潤さんを起用したデジタル広告を展開。「(1)起床時・就寝前(2)水分チャージ・移動(3)スポーツなどアクティブなシーン――の主に3つの飲用シーンに向けてアプローチしていく」。

 公式サイトへの誘導も図り、公式サイトでは「エビアン」の理解を深められるコンテンツを用意している。その中には、水質や歴史に加えて「エビアン」とその製造に関わるすべての点において透明性が認められたことを意味するB Corp(Bコープ)認証を取得したことも盛り込まれている。

 収益面では、多方面のコストアップが企業努力の限界を超えたとし、7月1日の出荷分から「エビアン」全体で12~15%増となる値上げに踏み切る。
 「船賃だけではなく、ペットボトル容器や段ボールの包装資材、パレットなどの輸送資材などありとあらゆるコストが大幅に上昇していることが値上げの大きな理由だ」と説明する。

 これにより、国産水との価格差が広がる公算が大きいが、これについては「お客様の健康意識の高まりと合わせて一つの機会と捉え、エビアンの天然のミネラルをはじめとする価値訴求を一層強化し、さらなるファンづくりを目指して価格に左右されない状況を作っていきたい」との見方を示す。

 容量別取り組みでは「今年は全ての容量に注力していく」考え。
 メインアイテムはコンビニでの採用が多い330mlで、自販機では500mlと220mlの2アイテムを中心に装填している。「220mlはシニアや女性のお客様から適量でカバンに入れて持ち運びしやすいということで強い引き合いをいただいている」という。

 環境面では、国内展開商品全てにリサイクルプラスチック(使用済みのペットボトルを再生して作られたプラスチック)を10%使用。世界では25年までに、全てのペットボトル製品でリサイクルプラスチック使用率100%を目指している。

 昨年は8月に日本で販売されている輸入ナチュラルミネラルウォーターでは初となる500mlのラベルレスボトルをEC限定で発売開始した。

 なおB Corpは、米国のペンシルバニア州に拠点を置く、非営利団体Blab(Bラボ)が運営する国際的な認証制度。社会や環境に配慮した事業活動において一定の基準を満たした企業のみに与えられる。
 B Corp認証は2006年に米国で始まり、世界基準の「良い会社」の証として今日では経済的な成功と、環境と社会の大きな目標を合わせて達成したいと考える企業が取得を試みる世界的な運動となっている。

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