商品が新しすぎて売場で“迷子”に 「大丈夫、お家は必ずあるから」 ポッカサッポロ征矢真一社長が見据える未来の食とは?

 商品が世にない全く新しいものであるがゆえに、類似商品と並べることができず売場が定まらないまま“迷子”になることがある。現在、ロングセラーと呼ばれているものの中には、この“迷子”の経験を経て諦めずに提案し続けて定着化したものもある。

 最近、このようなチャレンジを果敢に行っている企業の1つにポッカサッポロフード&ビバレッジが挙げられる。

 ポッカサッポロは、2013年にポッカコーポレーションとサッポロ飲料が統合して誕生した会社で、ヒラメキによる商品開発や消費者に驚きを与えることを重視したポッカコーポレーションの創業者・谷田利景氏のDNAを今も色濃く受け継いでいる。

カレーを缶入りにした飲む缶カレー「カレーな気分中辛」(170gリシール缶) - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
カレーを缶入りにした飲む缶カレー「カレーな気分中辛」(170gリシール缶)

 昨年話題となったカレーを缶入りにした飲む缶カレー「カレーな気分中辛」はその一端で、20年3月から現職の征矢真一社長は「スープと飲料の両方の技術を兼ね備えた当社にしかできないヒラメキの産物」と胸を張る。

 同社は現在、“未来の食のあたりまえの創造”をテーマに掲げ、少なくとも10年先を見据え、おいしさ・簡便・健康の面から植物性素材をキーワードに同社の強みを磨きあげている。

 「ポッカコーポレーション創業者・谷田利景さんの教えの一つは、ヒラメキと思いつきは違うということ。ヒラメキで一番大事なのはこの先何が起きるかの仮説があること。“未来の食のあたりまえの創造“もストーリーがないといけない」と説明する。

豆腐と水を入れてレンジで3分加熱するだけの簡単調理を訴求する「カップdeクッキング」シリーズ - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
豆腐と水を入れてレンジで3分加熱するだけの簡単調理を訴求する「カップdeクッキング」シリーズ

 この考えのもとで開発される新商品は“迷子”になるリスクを伴うが「リスクはチャンス」と捉える。

 昨秋発売した新商品では、豆腐と水を入れてレンジで3分加熱するだけの簡単調理を訴求する「カップdeクッキング」シリーズや、余った野菜などと一緒に加熱するだけで手作りスープができる「じっくりコトコト煮込みスープの素」が“迷子”になっている。

 これに対しては「“大丈夫、お家(売場)は必ずあるから”と考えている。営業には苦労をかけてしまうが、売り方の工夫と商品の改良で定着化に向けて粘り強く提案し続けていく」とのスタンスで臨む。

 売れている商品にもメスを入れる。

 今年、水色のフタで認知が広がりつつある「じっくりコトコト冷製缶」シリーズ名を廃止。同シリーズは16年からの5年で約6倍に急拡大しているが、常温でも飲まれる傾向に着目して“冷製缶”の冠を取っ払うという決断を下した。

「じっくりコトコト冷製缶」シリーズ名を廃止し刷新された「やさいのじっくりコトコト」シリーズ - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
「じっくりコトコト冷製缶」シリーズ名を廃止し刷新された「やさいのじっくりコトコト」シリーズ

 これにより既存ユーザーを失うリスクをとりながら、さらなるユーザーの裾野拡大に踏み出す。

 「冷やして飲まれるか、常温で飲まれるかはお客様の自由で、冷製と決めつけたマーケティングを止めた。現在、スープ売場だと回転が上がらず、野菜飲料売場だと他の商品と比べ回転が見劣りすることから若干迷子になっているが、ベーカリー横などに置いてもらえれば必ず売れる」と自信をのぞかせる。

 世代別や季節に応じた全国一律のマーケティングも「一昔前の手法」と切り捨てる。

余った野菜などと一緒に加熱するだけで手作りスープができる「じっくりコトコト煮込みスープの素」 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
余った野菜などと一緒に加熱するだけで手作りスープができる「じっくりコトコト煮込みスープの素」

 今年は、従来からのH(健康)+ESG(環境・社会・ガバナンス)の方針を深堀りするとともに、営業と生産の大改革に着手する。

 営業については売りのチカラを強化。

 「マーケティング4Pのプロダクト・プライス・プレイス・プロモーションのうち、当社はプレイスとプライスが弱い。プレイスに関しては販売チャネルで語っていてはダメでエリアごとに対応するなどもっと小さな括りでみていく必要がある。コト需要に変容しているため全国画一的な販促活動があまり効かなくなってきている」との見方を示す。

 生産は、春に組織変更を行い、工場を1つの経営単位(子会社)とみなし「生産本部で経営戦略を立てるようにする」。

 つくるチカラの強化では、既に研究所とマーケティングの一体化に着手。レモン・プランツミルク事業本部と食品飲料事業本部のそれぞれに研究所を設け、これとは別に“未来の食のあたりまえの創造“と正面から向き合うものとして基盤技術研究所を新設した。

 「3つの研究所を設け、それぞれの範囲を狭めることで動きを早くし、マーケッターと研究員が垣根なくコミュニケーションできる場を設けた。基盤技術研究所は時間軸を気にせず、30年後といったかなり先の未来を見据えた研究に取り組んでいる」と述べる。

 今年の商品戦略は、レモンとプランツミルクはこれまでの勢いを加速し、飲料はブランドと商品を集約して骨太化、スープは再活性化を図っていく。

左から「ポッカレモン100」(70ml)と開栓後の常温保存を可能にした新商品「卓上レモン」(70ml)と「すだち果汁100%」(70ml) - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
左から「ポッカレモン100」(70ml)と開栓後の常温保存を可能にした新商品「卓上レモン」(70ml)と「すだち果汁100%」(70ml)

 中でも今年はレモンを「打って出るステージ」と位置付ける。

 「レモン飲料・レモン食品それぞれで新商品を出していくが、特にこれまで既存品で頑張ってきたレモン食品は設備投資を行い、70mlのユニークネスな容器での『すだち果汁100%』を皮切りに新商品を発売していく」と意欲をのぞかせる。

 70ml容器そのものにも期待を寄せる。
 「70mlはトライアルの役割もあるが、鮮度があるうちに使い切れることを実感していただくとコアユーザーになっていただける。従来は橋渡し的な役割でプロモーションもそのような内容が多かったが70mlには独自の役割がある」とみている。

2021年11月9日締結式の様子 ヤクルト本社の成田裕社長(左)とポッカサッポロフード&ビバレッジの征矢真一社長 - 食品新聞 WEB版(食品新聞社)
2021年11月9日締結式の様子 ヤクルト本社の成田裕社長(左)とポッカサッポロフード&ビバレッジの征矢真一社長

 レモン事業は、ヤクルトとの業務提携でも期待する。

 「レモンに乳酸菌や発酵の技術が掛け合わさると機能的価値が倍加する。サッポロビールにも発酵技術はあるが、ヤクルトさまの知見・技術はそれとは全く異なるもので、これまでやれなかったことができると考えている」。

 ヤクルトの経営についても「短期的に採算が合わなくても我慢して投資し続けるといった企業哲学を学ばせていただきたい」と語る。

 なおブランドの将来像については「『ポッカレモン100』と『じっくりコトコト』を世界ブランドにしたい」との青写真を描く。